【皐月賞2024~人気想定馬の評価~】

■ジャンタルマンタル

23.4-22.7-24.2-23.5 1:33.8 朝日杯FS

路盤改修以降の皐月賞では時計の高速化が進み、マイル指向の先行力や追走力の要求度が上昇。端的にマイル重賞でのレース経験や好走経験が皐月賞でのアドバンテージとなります。

マイルG1としては緩急の大きなラップ推移だったとはいえ、朝日杯FS優勝のジャンタルマンタルは優秀なマイルスピードを持っています。米国血統優位のジャンタルマンタルにとって朝日杯のような緩急の激しいレース≒日本主流血統向きのキレが優位性を持つようなレースは本来不得手とするはずです。騎手の手綱さばきで無効化できた部分があるものの、マイル指向の総合力の高さを魅せました。極端な後傾ラップとなった共同通信杯で尖った能力を発揮できなかったことからも、マイル指向の総合力の高さが証明できていると考えられます。

皐月賞の好走条件となるマイル指向の追走力・非主流血統の優位性を持ち合わせ、打点もマイルG1級となればあまり弱点がなさそうに見えますが、人気馬なので凡走の可能性を探ります。

ここでの懸念は、成長曲線の逆転と距離延長適性です。濃厚な米国血統がゆえに完成度の高さで2歳G1を勝利したと仮定するならば、日本・欧州血統を持つ馬が成長力で能力を詰めていること・または逆転していることを考えなければなりません。また、路盤改修以降の皐月賞で好走した父:米国血統は父ドレフォンのジオグリフのみ。ジオグリフの牝系には小回り重賞で滅法強いアンデスレディーがいました。距離延長適性ではマイル指向の総合力の高さがそれを反証していると考えられます。

基本的に「全方位的に強い馬」というのは存在しません。急加速力に特化しているならば、持続力では劣る性質を持つように、能力の先鋭化はトレードオフの一面を必ず持ちます。全方位的に強いような成績を残してきた馬たちは、打点の高さによって劣る部分をカバーしてきた可能性が高いということです。G1馬であるジャンタルマンタルはその打点を認めつつも、共同通信杯で中距離指向の末脚を補いきれず敗戦しています。さらに200m延長の皐月賞で中距離指向の末脚や失速耐性の要求度が高まる条件では2歳時に魅せたパフォーマンスを発揮しきるのは難しいのではと考えます。

 

■シンエンペラー

35.0-36.9-23.9-24.0 1:59.8 京都2歳S

前後半59.1-60.7という前傾レースかつロングスパートが誘発された京都2歳S。良馬場京都2000m≒内前有利とこのレース質感があいまってゴール前は大混戦。スパート余力で優位性を持った後方待機勢が上位に台頭。凱旋門賞馬(Sottsass)を全兄に持つ欧州血統の強みを生かしたシンエンペラーが最後に抜け出し勝利。

欧州指向の持続力と失速耐性に良さがありそうなレースぶりで、ホープフルS弥生賞では先行力も示しました。皐月賞でも適性や立ち回りに問題はなさそうですが、人気馬なので凡走の可能性を探ります。

ここでの懸念は全体的なスピード不足と成長曲線の未熟性。マイル指向のスピードを感じさせたレースはなく、血統全体も欧州色優位。古馬1勝クラス相当の京都2歳から、古馬2勝クラス相当のホープフルS古馬2勝クラス超相当の弥生賞とレースレベルが徐々に上がっています。着差が少しづつ離されているように成長曲線がまだ上がり切っていない可能性も示唆されています。スタミナや失速耐性に優位性を持つ能力を良馬場の皐月賞では活かしきれない可能性に注意したいです。

 

ビザンチンドリーム

35.6-24.6-24.2-22.4 1:46.8 きさらぎ賞

重めの芝で上がり特化型のレースが展開されたのがきさらぎ賞

新馬戦同様にあり得ない位置からぶっ飛んできたのがビザンチンドリーム。豪快な末脚は非常に魅力的ですが中距離指向的であるともいえます。これはマイル指向のスピード性能とは逆の適性を示しており、かつ早いペースを追走できる能力も示していません(血統的な補完も期待薄)。小柄な馬体と中距離指向の末脚特化型タイプという状況から全体的なスピードが問われる条件は不得手なはずで、皐月賞では前後内外でかなりの恩恵がないと浮上できないのでは。

 

ジャスティンミラノ

37.3-25.4-23.6-21.7 1:48.0 共同通信杯

超スローから上がり4F勝負。ポジションを取っても折り合って(エコロヴァルツ・ジャンタルマンタルは激しく折り合い欠く)、やや早めのスパートにも応えて2歳王者をちぎったのがジャスティンミラノ。

ジャスティンミラノは瞬発力勝負を2連勝していますが、末脚特化型ではなくむしろその逆。ワンペース指向の先行力を主体に戦うタイプに思えます。そのうえでこれだけの瞬発力を持っていることは今後のレースにおける高品質なオプションであるともいえます。

母は欧州短距離G1馬ですが自身の追走力は未知数。雄大な馬格とフットワークが魅力的で小回り替わりがダメとは言い切れませんが、東京→中山内回りが条件好転とは思えません。そして最大の懸念である初のペースに戸惑う可能性も捨てきれません。未知数が多いなかで人気している状況といえます。

 

■レガレイラ

35.4-36.8-24.5-23.5 2:00.2 ホープフルS

多くの馬がスタミナ切れを引き起こしていたレース。結果的に先行策から上位に来た2頭は凱旋門賞馬の全弟シンエンペラー(欧州血統)とダートで失速耐性を鍛えられていたサンライズジパング。2歳馬たちには苦しいレースを後方待機で構えたルメール騎手の危機察知能力からくる挙動はお見事。それに答えたレガレイラの末脚もお見事です。

能力の方向性としては反応の良い≒急加速力に優れる総合力の高い末脚が武器となりそうです。一方で先行力や追走力の成長に乏しそうな血統構成(父スワーヴリチャードの米国色を薄める&末脚を引き出す傾向にある母系)です。

ホープフルSではガス欠するライバルを尻目に浮上することができましたが、レース経験を重ね鍛えられた牡馬が集う&レース序盤から中盤における追走力の要求度が高くなる皐月賞では十分なパフォーマンスを発揮できそうにありません。ここでレース前半の忙しさを経験して向かうオークスで能力全開が叶いやすいのでは。

 

■メイショウタバル

36.3-25.2-22.5-22.9 1:46.9 つばき賞

前後半4Fが48.8ー45.4という後傾ラップ。かつ後半は22.5ー22.9を刻むスピード・瞬発力・持続力の末脚総合力が要求される高速ロングスパート戦。全体時計は古馬3勝クラス相当という秀逸さ。これをハナ奪い、道中他馬に絡まれながらも4角先頭から地力で叩き出したのがメイショウタバル。

ちなみに京都芝1800mの古馬3勝(1600万)クラスはあまり施行回数がなくざっと遡っても30数レースしかありません。しかしながら京都芝1800mの古馬3勝クラスを勝ち上がった馬のその後はなかなかに優秀なものがあります。古くはスズカフェニックスがその後高松宮記念を優勝、近年だとレイパパレ大阪杯を優勝しています。ほかにもアクシオン鳴尾記念中山金杯を連勝し札幌記念を2年連続好走、ミッキードリーム朝日CC優勝、アルキメデス朝日CC優勝、デスペラードステイヤーズ2着から翌年以降2年連続優勝、エスポワールランドネが重賞連続好走、メイショウカンパク(メイショウタバルの伯父)・ディメンシオンが重賞を人気薄で激走しています。

3歳2月に隠れた出世条件である「古馬3勝クラス・京都芝1800m」に匹敵するタイムを叩き出しているメイショウタバルの能力はかなりのものを秘めている可能性を示しています。

 

35.2-24.4-23.6-22.8 1:46.0 毎日杯

レース全体としては序盤息を入れてからは加速ラップ的なミドルスパート勝負。重馬場の巧拙が大きく影響したということを前提としても、メイショウタバルが叩き出したタイムに疑いの必余がなく秀逸なものです。馬場差などを考慮しても近10年で最高数値を叩き出しており、これはシャフリヤールやブラストワンピース、アルアインを凌ぐものです。

なお、スプリングS毎日杯皐月賞までの間隔が短く本番では消耗具合が結果に影響を及ぼします。古くはスマイルジャックスプリングSで激走後、皐月賞を凡走し日本ダービー激走。最近ではベラジオオペラがスプリングS快勝も皐月賞惨敗(展開不利)で日本ダービー4着と巻き返しています。路盤改修以降のスプリングSおよび毎日杯から皐月賞を好走した馬(ガロアクリーク、エポカドーロ、アルアインリアルスティールキタサンブラック)の共通点は雄大な馬格にあります。メイショウタバルは前走馬体重が500kgとこれに該当。当日の馬体重には注意しつつも現状はタフなローテーションを理由に評価を下げる必要はなさそうです。

メイショウタバルはゴールドシップ産駒らしいスタミナの豊富さ勝負根性を受け継ぎつつも、父産駒らしからぬレース序盤での前向きさを持ちます。父ゴールドシップは捲って3角番手という「実質先行馬」のような競馬を展開して無尽蔵のスタミナで他馬をなぎ倒してきました。実際ライバル馬の騎手は「ゴールドシップに先行されたらもうお手上げ」とコメントすることもありました。前進気勢の高さから父があまり表現できなかった競馬をできるのがメイショウタバルの良さとなっていくでしょう。

サンデーサイレンスの3×4はありますが血統全体では米国色を主張するため、長い直線や中距離指向の伸びのある末脚勝負では適性がズレます。先行力・スタミナ・勝負根性という武器を活かしきるのはダービーではなく皐月賞。基本的に逃げ馬は人気で買うキャラではありません(≒人気薄で騎手の意識が薄れる状況が買い時)が、これだけの条件が揃っており交わされて番手からでも折り合いがつくことからも期待は高まります。「守さん、うまく仕上げてください」と願わずにはいられません。

【NearcoMemo】~京都ダ1900m 3歳未勝利編~

かなりニッチな条件ですが3歳未勝利の京都ダ1900mについて着目していきます。

 

20.1.25(重) 1:58.2 [2ー2] 1:59.6 バンクオブクラウズ

20.5.23(良) 1:59.2 [7ー4] 1:59.7 メイショウコジョウ

16.4.23(稍) 1:59.3 [1ー1] 2:00.6 カルムパシオン

15.5.17(重) 1:59.4 [4ー4] 2:00.5 シルバーソード

24.2.18(稍) 1:59.4 [1ー1] 1:59.9 ムルソー

24.1.21(不) 1:59.6 [3ー2] 2:02.5 スマートリアファル

18.4.21(良) 1:59.8 [1ー1] 1:59.8 トワイライトタイム

 

上記は3歳未勝利京都ダ1900ⅿを最速タイム順に並べたものです。左から、年月日・馬場状態・3角ー4角通過順位・馬場差補正タイム・1着馬名を表記。

馬場差を補正した実質タイムで2:00.0未満を示したのはバンクオブクラウズ・メイショウコジョウ・ムルソー・トワイライトタイムの4頭。

最速タイムを保持しているバンクオブクラウズは名古屋大賞典マーキュリーCで好走。トワイライトタイムも準オープン昇級後即好走。メイショウコジョウはその後2勝クラス止まり。この3頭をみると逃げ先行策からこのタイムを叩き出したバンクオブクラウズ・トワイライトタイムと捲り差したメイショウコジョウとに分けられます。

メイショウコジョウは展開に引っ張り上げられた感が強くあります。ここで番手から3角先頭で0.2秒差2着したメイショウカズサ。このメイショウカズサがのちに重賞を3勝していることを考えると、京都ダ1900ⅿで先行策から好タイムを叩き出すことが能力の証明として信憑性が高いと考えられます。

 

この条件下で、歴代4位タイの勝ち時計かつ馬場差補正後の実質タイムでも歴代4位を[1ー1]の逃げから叩き出したのが今週の阪神5Rに登録されているムルソー。今回の走りだけで「G1級だ!」と騒ぐには時期尚早かと思われますが、能力の打点は重賞まで届くものがありそうです。京都ダ1900を逃げ先行から好タイムしたムルソーの今後にひっそりと注目していきたいです。

【3歳 東京ダ1600について】

34.6-46.5 1:38.0 (良) ソニックスター

34.6-46.3 1:35.0 (良) ペリエール (ユニコーンS)

34.8-46.5 1:37.0 (良) ウェイワードアクト

34.1-45.8 1:35.5 (重) サンライズジー

34.4-46.2 1:35.2 (良) ペイシャエス (ユニコーンS)

34.7-46.3 1:34.8 (重) ジュタロウ

34.0-45.9 1:34.4 (重) スマッシャー (ユニコーンS)

33.8-45.7 1:36.4 (良) クリーンスレイト

34.2-46.1 1:34.9 (稍) カフェファラオ (ユニコーンS)

33.9-45.8 1:35.5 (重) ワイドファラオ

34.4-46.5 1:38.4 (良) ミックベンハー

34.1-46.4 1:35.9 (良) サンライズノヴァ

33.8-45.7 1:35.8 (良) アンジュデジー

34.2-46.4 1:35.6 (不) ゴールデンバローズ

34.2-46.5 1:37.3 (不) ブラックシェンロン

34.0-45.7 1:36.6 (良) チャーレーブレイヴ (ヒヤシンスS)

34.4-46.2 1:40.2 (稍) オリアーナ

34.3ー46.4 1:36.3 (良) アイアムアクトレス (ユニコーンS)

34.3‐46.5 1:35.5 (不) シルクメビウス (ユニコーンS)

34.5-46.5 1:37.3 (良) アークビスティー

34.5-46.4 1:36.7 (重) フリソ

34.2-46.0 1:37.0 (不) チェルカ

33.8-45.7 1:36.6 (重) ウインマグナム

34.0-46.0 1:37.0 (良) サクセスブロッケン (ヒヤシンスS)

34.1-46.3 1:37.2 (良) ナイキアースワーク (ユニコーンS)

34.3-46.5 1:37.1 (不) トーセンディバイン

34.1-45.9 1:37.0 (不) ドンクール

34.3-46.3 1:36.0 (良) トップオブワールド (ユニコーンS)

33.6-45.9 1:37.1 (良) カフェオリンポス (ヒヤシンスS)

33.5-45.3 1:35.8 (良) ユートピア (ユニコーンS)

 

2003年以降で3歳東京ダ1600mは841レースあります。うち前半4Fを46.5秒以内で通過したのは上記の30レース。全体の割合では約4%というレアケースにあたります。さらに良馬場に限定すると16レースでその割合は約2%の発生率になります。良馬場で前半4F46.5秒以内は間違いなく引き締まったペースで、そこから先はこのペースに乗じて好タイムを叩き出すか、ズブズブになるか。出走馬の能力がハッキリと表れる状況ということになります。また、前半4F45秒台は10レースで発生率は約1%という超レアケース。

これらレアラップで勝ち切ったから即ち強いかといえばそういうわけでもありません。例えば、道悪で時計が出やすい馬場だった場合はその時計的価値は失われますし、後方ポツンでレースラップと乖離した走りでも価値は見出せません。

やはりレースごとの精査は必要になりそうですが、3歳東京ダ1600mでは前半46.5秒以内のレースが出現した場合には注目すべきレースだということを覚えておいて損はないでしょう。

【ヒヤシンスS回顧】

レース直後から「ムムム」と感じたのが今年のヒヤシンスS。この胸のざわつきの正体を言語化し明らかにすべく、ヒヤシンスS回顧というかたちで記しておきたいと思います。

 

24年 34.6-24.5-37.7 1:36.3 ラムジェット

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13年 34.0-24.3-38.3 1:36.6 チャーレーブレイヴ

21年 35.9-24.9-36.0 1:36.8 ラペルーズ

08年 34.0-24.6-38.4 1:37.0 サクセスブロッケン

04年 33.6-25.3ー38.2 1:37.1 カフェオリンポス

15年 35.5-24.8-36.8 1:37.1 ゴールデンバローズ

 

上記はコース改修以後のヒヤシンスS(良馬場)をタイム順に並べたものです。ご覧のとおり今年のラムジェットは良馬場における最速タイムでヒヤシンスSを勝利したことが分かります。ラップバランスをさらに分かりやすくするため中間2Fを3F換算に置き換えると下記のようになります。

 

24年 34.6-36.8-37.7 1:36.3 [+0.6] ラムジェット

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13年 34.0-36.5-38.3 1:36.6 [+1.5] チャーレーブレイヴ

21年 35.9-37.4-36.0 1:36.8 [+2.4] ラペルーズ

08年 34.0-36.9-38.4 1:37.0 [+1.7] サクセスブロッケン

04年 33.6-38.0ー38.2 1:37.1 [+0.3] カフェオリンポス

15年 35.5-37.2-36.8 1:37.1 [+0.8] ゴールデンバローズ

※馬場差は21年のみマイナスで他は大差なし

※08年は直線で強烈な向かい風

 

おおまかに見ると上記レースのラップバランスは序盤から突っ込んだ"消耗型”と序盤~終盤に差がない"効率型”のふたつに分けられます。効率型となった21年・15年からはG1馬の輩出がありませんでした。効率型のラップバランスではダートG1で必須条件となるハイペース耐性(≒失速耐性)が問われなかったことが最大の要因でしょう。それを裏付けるかのように、消耗型となった04年カフェオリンポス、08年サクセスブロッケンはもちろん、13年からも3着コパノリッキーがその後G1馬となっています。若いうちにタフなレースを経験かつ時計的裏付けも示すことの重要性を物語っているのではないでしょうか。

次に、[  ]内に示した数値は同日に行われたフェブラリーSとのタイム差です。0.3秒差と迫ったのがカフェオリンポス、次いで0.6秒差に迫ったのがラムジェットです。

 

▼2004年                

35.8-25.0(37.5)-36.0 1:36.8 アドマイヤドン 

33.6-25.3(38.0)ー38.2 1:37.1 カフェオリンポス  

▼2024年

33.9-24.0(36.0)-37.8 1:35.7 ペプチドナイル

34.6-24.5(36.8)-37.7 1:36.3 ラムジェット

 

04年ヒヤシンスSが0.3秒差と迫った04年フェブラリーSは序盤3Fが35.8秒・勝ち時計が1分36秒8。この序盤3Fと勝ち時計はともにフェブラリーS(コース改修以降の良馬場)で最も遅いタイムとなっています。これだけ序盤が遅いと全体の時計が押し上げられませんのでタイムアタックという観点での価値はないに等しいものとなります。

一方で、24年ヒヤシンスSが0.6秒差と迫った24年フェブラリーSの序盤3Fは33.9秒で、これは06年と並んで最速タイのラップです。06年はそこから23.5秒を刻んで直線を37.5秒で駆け抜ける超抜レース。勝ったのはあのカネヒキリですから単純なレース比較では、6歳でG1初勝利となったペプチドナイルが手も足も出ないのは致し方ないといったところです。24年フェブラリーSはそれでも06年フェブラリーSから中盤で0.5秒、終盤で0.3秒劣るだけに踏みとどまっています。こちらはタイムアタックという観点での価値はそれなりにあったことが認められます。

これらのことを総合的に考えると、同日のフェブラリーSに0.3秒差に迫った04年と0.6秒差に迫った24年ではどちらの内容を評価するかは明白になります。

 

■総括

① 勝ち時計は良馬場で最速タイム

② G1との相関性が高い消耗型のラップバランス

フェブラリーSと0.6秒差≒古馬オープン級

 

今年のヒヤシンスSはハイレベルな一戦でした。良馬場最速タイムは純粋に評価すべきで、古馬オープン級のパフォーマンスを3歳2月の時点で示したことは今後の飛躍におおいなる期待が膨らみます。その裏付けとなるのがGⅠとの相関性が高いラップバランス"消耗型”であることや、水準級の時計を叩き出してきた同日フェブラリーSと0.6秒差であることが挙げられます。

特にレース上がり3Fを1秒上回る末脚で突き抜けたラムジェットは秀逸の一言。失速耐性に優れる末脚が武器であり得ない位置から猛然と追い込むシーンがデビュー戦から連続で繰り広げられていました。血統的には祖母ラヴェリータが日本競馬ファンには馴染み深いですが、5代母Classy'n Smart(カナダ2歳女王)の仔にはDance Smartly(カナダ三冠)・Smart Strike(説明不要の大種牡馬)がいる名牝の血脈。ここにゴールドアリュールマジェスティックウォリアーを父として迎えた血統構成。父・母父からも日本ダートG1馬が輩出されていることを考えると今後の未来は明るいといえます。なお脚質的に前後内外の不利を受けやすいことは多少覚悟が必要ですが、今後の米国遠征などの経験から追走力なども含めて成長を見届けたいです。順調なら2025年フェブラリーSで本命を打つと宣言しておきます。

いずれにしても、ラムジェットのみならず敗れたアンクエンチャブル以下も能力を示しています。このヒヤシンスS組の今後の飛躍を期待しつつこのあたりで回顧を終わらせていただきます。

 

 

【有馬記念/各馬評】

■スターズオンアース

好走域の広いタフな牝馬。マイル対応の巡航速度と中距離で上がり上位を連発できる末脚が武器で、両立できるレースは前走ジャパンCのような大回りかつ中長距離で直線も長いコース形態でこそ。大阪杯ヴィクトリアマイルで1番人気を裏切り、人気の落ち着いたジャパンCで好走。前走の好走や全体的な安定感から有馬記念では上位人気が見込まれますが、ここでは一歩立ち止まって考える必要がありそうです。

有馬記念は序盤~中盤の巡航速度よりも、中盤~終盤にかけての持続力に重要度の比重があるレースです。全体的な巡航速度と末脚の両立が高いレベルで求められるジャパンCとは端的に真逆の適性が問われると考えることもできます。大回りかつ直線の長いコースから小回りかつコーナー6回で直線の短いコースへの転戦は、コース形態や起伏が求められる能力の方向性の違いを意味します。

イメージとしてはかつて同様に桜花賞オークスを制し三冠を狙うも秋華賞3着となったブエナビスタを彷彿とさせます。ブエナビスタも男勝りのタフな牝馬で、その好走域の広さはいうまでもありません。ただ、ブエナビスタは小回りコースのG1で未勝利でした。マイルG1でも好走できるほどのスピードを持つことが、小回りコース特有の中盤以降の持続力勝負に対して適性としてややズレているのだと考えられます。現状、戦績的にも劣るスターズオンアースがここで殻を破って小回りG1勝利というのは難しい状況にあると考えます。この状況で人気するようであれば期待値は低いのではないでしょうか。

 

■タイトルホルダー

全体的なスピードとスタミナに裏打ちされた秀逸な失速耐性が武器。

ここでの懸念は他同型との兼ね合いとピークアウトしている可能性。

日本主流血統の結晶的なドゥラメンテを父に持ちながら、Sadler's Wells疑似クロス・Mill Reefクロスを持つようにタフさ強化の主張が強く戦績に表れています。前走ジャパンCでは内枠でも前後関係での立ち回りが非常に難しい状況にあり、先行力の優位性を最大限に生かすにはパンサラッサを無視した絶妙なペース配分が必要でした。当然にコース替わりは条件好転でしかありません。

42.1-38.3-24.2-24.1-23.7 2:23.4 22年有馬記念

33.9-23.7-24.0-23.7-24.4 2:09.7 22年宝塚記念

36.5-35.9-38.3-37.2-23.4-24.9 3:16.2 22年天皇賞(春)

昨年はアスクビクターモアの回避によりかなり気楽な立場でしたが、結果的にキレ負け。圧巻だった宝塚記念天皇賞(春)ではラップバランスからも分かるように、ハイペースやロングスパートというように"他馬がバテる”要素を仕掛けていました。22年有馬記念は外枠から出足悪く(騎手談)なったためか、序盤で早々に緩め、終盤でも仕掛けることなく末脚優位な馬たちが余力十分に立ち回ってきたという状況。これがキレ負けしたことの最大要因であり、バテる要素を仕掛けるどころか自分の土俵から飛び降りるような競馬をしていたことが分かります。

今年も昨年同様にタイトルホルダーのペースメイクを邪魔するような馬は見当たりません。引退レースということもあり中途半端な競馬はしてこないと考えます。バテバテのスタミナ勝負に持ち込んで良い勝負ができるのではないでしょうか。ピークアウトしていないのならば・・・。

 

ジャスティンパレス

雄大なフットワークが特徴のディープインパクト産駒

失速耐性と持続力優位の末脚が武器。

悲願のG1制覇となった天皇賞(春)は例年に比べて緩急の大きい展開。1枠1番から向こう正面手前で外々に持ち出す鞍上の素晴らしい騎乗。雄大なフットワークから大回りの京都外回り、急加速力不足を終盤の下り坂が補完というように適性の合致が認められました。一方で、その後の宝塚記念では600m付近から追い出しややガス欠、天皇賞(秋)ではレースに付き合わず漁夫の利的に末脚を伸ばすというレース内容です。

天皇賞(秋)

このことからも、着順だけでなくレース内容からも天皇賞(春)が相対的に高いパフォーマンスであったことが分かります。なお、阪神大賞典はかなり緩い展開を内々の番手で運び、直線手前まで仕掛けを待っての勝利でした。天皇賞(春)が最も高いパフォーマンス≒ジャスティンパレスが光り輝く舞台であることは、雄大なフットワークや持続力優位の末脚が武器であることのゆるぎない証拠となります。

持続力優位の末脚は有馬記念で要求度の高い能力ですが、一方で雄大なフットワークは中山内回りのコーナーを6回通過(スタートから最初の4角までの距離は192m)する適性を持ち合わせていません。これではジャスティンパレスの特徴と武器を両立させることが難しくなります。

古馬となりグッと成長した姿を魅せてきたジャスティンパレスですが、G1は片翼で羽ばたけるほど甘い舞台ではありません。タイトルホルダーらを中心にタイトかつ仕掛け前倒しの競馬となることを信じ、漁夫の利で突っ込んできた天皇賞(秋)の再現をしようにも東京2000と中山2500では直線の長さが違います。ましてや、今度は背負う人気からも"勝ちにいく競馬”が求められる立場となりますから、展開待ちという良くも悪くもハナから消極的な競馬を選択することは想像しづらいです。

どこかで仕掛けるということは有馬記念の場合、ほとんどがコーナー区間での出来事です。その場合、雄大なフットワークが邪魔をしてエネルギー消費が高まり、自慢の持続力を活かしても詰めが甘くなることでしょう。残り少ないディープインパクト産駒の上級馬として、来年の天皇賞(春)を是非とも目指して頑張って欲しいと思います。

 

■シャフリヤール

キレ優位の秀逸な末脚が武器。全体的スピードを武器とした全兄アルアインとの違いは馬格差(5歳秋で約70kg差)やキレ育成に定評のある藤原厩舎が影響している模様。軽い馬格からパワー指向の能力は薄く、日本ダービー以降の好走は2400mに偏っています。なお、日本ダービーは緩い序盤からの高速スパートでした。例年の有馬記念では持続力が優位性を持ちやすく、距離はよくても求められる適性がズレます。良馬場でも中山2500ではパフォーマンスを発揮するのは厳しそうです。

 

■ドウデュース

追走力と持続力優位の末脚を活かしやすい、高速馬場の中距離戦がベスト。

ここまでの戦績でスタミナ強化が図れるようなレースでの善戦や経験がなく、依然として朝日杯FSや日本ダービー(レコード)の勝利が目立ちます。ハーツクライ産駒でも米国色の強い血統構成から追走力が主体で、中距離以上でスタミナを要する場面ではパフォーマンスが伸び悩んでいます。今年は無念の出走取消となったドバイターフがベストな舞台だったと仮定すると、近年の有馬記念好走馬にそのようなタイプが見当たりません。距離延長指向の適性が薄く、起伏の大きいコースやタフさが求められる展開ではパフォーマンスが伸び悩むと考えます。

 

■ソールオリエンス

23年 京成杯 4コーナー(直線入口)

京成杯は緩い流れから直線だけで着差をつけた完勝≒性能の高さ証明しました。しかしながら、4コーナーでの走りからコーナリングが巧くないことが表面化しつつありました。いわゆる内傾がうまく出せないために、コーナーで加速力を生み出しにくい特徴を持ちます。

23年 皐月賞 4コーナー(L3F地点)

皐月賞でもその様子が発現。ソールオリエンスの顔の向きが進行方向よりも右側に向いていることが分かります。これは、逆手前となり逸走しかけたベラジオぺラも同様の顔向きであることが分かります。騎手が強い意志を持って「曲がれ」という指示を出していることの表れでもあります。

23年 皐月賞 4コーナー(L2F地点)

さらに200m進んだ場面。勝負所を迎えているソールオリエンスはスピードが乗っている状況。ここで鞍上の横山武史騎手はコーナーをタイトに回ることよりも、スムーズな加速を選択します。その結果がドリフト的な4角のコーナリングとなり、大外を回す進路取りとなりました。

23年 セントライト記念 4コーナー(残り約500m地点)

ひと夏を超え迎えたセントライト記念でも、状況はあまり変わっていません。

23年 菊花賞 4コーナー(残り約500m地点)

菊花賞では残り500mを切ったシーン。映像のとおり、内傾がうまく保たれていることが分かります。これは大回りの京都外回りだからこそできた内傾です。また、京都外回りの4角出口は「下り坂でスピードも乗っているので4角が90度ぐらいに感じるほどキツイ」という騎手もいるようです。このあとソールオリエンスは4角出口から外々に持ち出されていくことで、そのキツさを解消したのだと推測できます。

ここまでコーナリングシーンとともに振り返ってきたとおり、ソールオリエンスにとって小回りコースで「コーナーをタイトに回ること」と「スピードアップすること」はトレードオフの関係にあります。有馬記念は中山内回りのコーナーを6回。今回ポジションの意識が非常に高い川田騎手への乗り替わりですが、前々や内々での競馬に対応してパフォーマンスを上昇させるほどの適応力をソールオリエンスが持ち合わせているかは確認できていません。

また、皐月賞こそ最内枠や多頭数を前後の利と実力差で覆しての勝利でしたが、日本ダービーセントライト記念菊花賞ではそれぞれ、キレ不足末脚に偏った競馬中長距離でのスパート余力不足などを露呈しました。歴戦の古馬相手に総合力で抜けた存在ではないことも考えると、苦しい競馬になりそうです。

 

■スルーセブンシーズ

失速耐性持続力優位の末脚を武器にした急坂巧者

ステイゴールド系の5歳秋はまさに充実期。米国色の強い母にドリームジャーニーを迎えた血統。米国色の強さは有馬記念でマイナス方面に作用しそうですが、スルーセブンシーズは宝塚記念を上がり最速で2着、凱旋門賞0.4秒差4着と米国色を否定するような能力を示しています。また母マイティ―スルーの仔は中山芝ダで【13.2.4.10】という成績。スルーセブンシーズ自身は中山芝で【4.1.2.0】。母から受け継ぐ失速耐性や持続力優位の能力を、父が小柄(≒芝指向のスピード)・器用さ・成長力を加えて生み出されたのがスルーセブンシーズだとイメージできます。

ここまでマイル指向の能力は薄く、例年マイル指向の適性が問われやすい中山牝馬Sも緩急の大きいかつ終盤早い展開を押し上げることで運が勝利方向に振れました。このことからも2000m基準で距離延長指向に適性があると判断できます。

宝塚記念では直線進路を切り替える時間的ロス。外々を回したイクイノックスも距離的ロスは受けているので判断には少々注意が必要ですが、もうちょっと迫れていたと考えてよさそうです。それを可能にするのもピッチ走法からくる器用さです。多くの有力馬が適性とはややズレながらも打点の高さだけで着順を上げてこようとする今回、スリーセブンシーズは失速耐性と持続力優位の末脚という武器を器用さで活かしきれる数少ない存在です。

 

■タスティエーラ

スタミナを主体とした先行力と持続力が武器。消耗戦に強い自力勝負型

クラフティワイフ系にマンハッタンカフェ(菊花賞有馬記念天皇賞春)・サトノクラウン(宝塚記念香港ヴァーズ)を重ねた血統で、父・母母父・母母母父がNorthern Dancer系。血統全体のイメージはスタミナ・失速耐性・持続力・成長力が浮かび上がります。

このイメージ通りだったのは皐月賞。タスティエーラは、前半59.6秒で折り返したにも関わらず後半でも61.2秒で駆け抜けるといった「失速耐性と末脚の持続力」の優秀さを魅せています。前半58.5~59.3秒で逃げ先行したグラニット・タッチウッド・ベラジオオペラが後半は63.1~64.4秒と失速していることを考えるとタスティエーラの優秀さが実感できます。

転じて、末脚のトップスピードや急加速力が要求されやすく、馬力やパワーが邪魔となり血統的にも好走例が少ないような日本ダービー菊花賞ではパフォーマンスを下げるはずでした。しかしながら、日本ダービー馬となり、菊花賞もメンバー中上がり2位で2着。適性とズレながらも世代屈指のパフォーマンスを発揮していることは総合力の高さであると額面通りに受け取ることができます。

春は共同通信杯で賞金加算できず弥生賞参戦という強硬ローテから、皐月賞のタフ競馬を経由して日本ダービー優勝。今回は休養明けから菊花賞を経由して有馬記念へフレッシュな状態で臨戦。古馬初対戦は未知数ですが、総合力の高さは勝るとも劣らず。そこに適性の合致や斤量の利、フレッシュさやムーア騎手といった武器が見込めます。

【チャンピオンズC2023】

■傾向
・先行馬有利

・人気薄での激走も先行策が多い

・差し馬は芝指向の末脚(≒マイル重賞で判断可)が必要

・外枠不振傾向(特に8枠は壊滅的)

・4角外回すとかなり厳しい(道悪時は尚更)

・血統:SS系から芝指向のスピード・米国系から先行力を受け継いでいるとよい

・SS非内包馬は1700m以下の実績でスピード能力の判断可能

・G1馬の激走に注意必要≒技術の進歩により加齢による能力減退ゆるやか

 

■レモンポップ

nearco-tesio.hatenablog.com

こちらの南部杯回顧でも触れたように、レモンポップの武器は3つ。先行力スピード維持力失速耐性です。ただし、最後に言及しているように狙うべきレースはBCダートマイルだったと考えています。

南部杯は例年、距離短縮指向の適性が問われるレースです。そこでの圧勝はすなわちマイル視点から距離短縮指向の能力に秀でていることを証明しており、ここから距離延長適性を示す要素は見当たりません。これまでの戦績や米国色の濃い血統からもワンペース気味にスピードを発揮することがレモンポップにとって最も高いパフォーマンスへとつながっていきます。

チャンピオンズCでは1600→1800、ワンターン→周回コース、さらにはコース起伏からも、これまでより緩急の大きいレースとなることが見込まれます。これはレモンポップが得意とするマイル指向のワンペース気味なスピードを発揮しづらい条件替わりということを意味します。

過去、血統にSSを内包せず好走したのは、ホッコータルマエアスカノロマンテイエムジンソク・インティの4頭。4頭とも1700m以下の重賞実績と1800m以上の重賞実績を併せ持っていました。レモンポップは1800m以上の重賞実績が不足しており、それに近いかたちで鍛えられたレース経験もありません。

緩急のついた武蔵野Sでは芝指向のスピードに秀でるギルデッドミラーに屈していることから、仮に距離は持ったとしてもSS系のスピードを受け継いでいる馬相手に劣勢となりそうです。

 

■セラフィックコール

大型馬エンジンの掛かり遅いトップスピード抜群

これらの特徴はマリオカートクッパを彷彿とさせます。マリオカート経験者であれば分かると思いますが、クッパは玄人向けのキャラで、操作性や急加速力と引き換えにレーシングゲームでは最大の武器となるトップスピードを手に入れています。チャンピオンズCで外々を回すことは御法度的騎乗ですが、これまでセラフィックコールは急加速力を補うために3角付近から外々を回してエンジンを掛けながら直線に向かうシーンが目立ちます。

また、中京ダートコースは下り勾配の3~4角を回る器用さも求められます。内々を立ち回った経験の少ない大型馬というだけでも不安材料ですが、仮に内々を立ち回れたとしても、仕掛けどころが急坂となれば急加速力不足の影響が大きくなりそうです。

3歳馬ながら無敗で古馬混合重賞を優勝は素晴らしいことですが、これまでのパフォーマンスが発揮できないシーンが想定されます。

 

■アイコンテーラー

先行力に優れる平坦巧者の中距離馬。芝ダ全5勝が新潟・大井。近2走がシリウスS(阪神2000)と砂を入れ替えタフ化したJBCLクラシック(大井1800)で、平坦巧者ながらタフな質感に対応しつつある可能性を示唆。ただし、平均的な馬格の牝馬であることから本質的なパワーアップは見込みづらい。むしろ近走よりも追走力の要求度が上がった急坂コースでの走りはスパート余力の減少が心配になります。この状況で人気するようならば期待値は低いのでは。

 

■グロリアムンディ

スタミナを基盤として先行力失速耐性を武器に立ち回る。昨年のチャンピオンズCはスタートミスと芝指向の末脚が活きる質感の軽いレースとなったことで、先行力とスタミナともに活かす場面がなく終戦

血統にSSの血を持たず好走した4頭(ホッコータルマエアスカノロマンテイエムジンソク・インティ)は1700m以下の重賞で好走しているように、実績でスピード能力を説明できていました。グロリアムンディは香取特別(中山2400)で持ったまま4角を回ってきたり、アンタレスS(阪神1800)では前後不利の展開を唯一踏ん張るなど、スタミナ指向の能力がうかがえます。スピード能力は2~3歳時の芝オープンでの実績に求めるしかなさそうで、過去の好走馬とはややズレています。

大久保厩舎は持続力・失速耐性を育成しやすい傾向があり、「急坂+1800」では阪神・中山よりも質感が軽くなりやすい中京だとスタミナを持て余しやすいことや芝指向のスピードを持つ馬に屈しやすい状況となりそうです。

 

■ハギノアレグリア

欧州指向の末脚を備える中長距離馬。Sea-Birdクリスタルパレス・ジェネラス・キズナと重ねた血統で欧州色優位。米国色の薄まりが追走力の薄さに直結しています。中距離でもスタミナの要求度が高いレースで持続力優位の末脚を活かすかたちがベスト。それを裏付けるように23年帝王賞は2000mでも時計の早い決着となり凡走(やや強引な仕掛けもあり)。米国的追走力と芝指向のスピードが活きやすいチャンピオンズCよりも、砂入れ替えによりタフ化したであろう東京大賞典の方がパフォーマンスを発揮しやすいはずです。

それでも、応援してきた馬なのでなんとか頑張ってほしいものですが・・・

 

■テーオーケインズ

21年チャンピオンズCの走りから適性云々を語る必要はありません。かつてのコパノリッキー・インティ・ゴールドドリーム・チュウワウィザードというようにG1馬はやはり腐っても鯛。近年の技術向上に伴い加齢による能力の減退もゆるやかになっており、たとえピークアウトしていたとしても打点の高さの違いにより他馬が上回れないという状況が生まれます。21年のパフォーマンスが120点だとすれば、そこから80%の能力しか保っていないとしても96点を叩き出せるという具合。調教、枠順などからどの程度のパフォーマンスを発揮できるか一考してみます。

 

■クラウンプライド

12.7-11.2-13.1-12.8-12.6-12.6-12.7-11.9-12.3 1:51.9 22年チャンピオンズC

昨年2着のチャンピオンズCは暫定3F比較でみると【37.0→38.1→38.0→36.9】という数値になります。緩急の大きい後傾ラップを描くことで、前内が非常に有利かつ芝指向のスピードが優位性を持つという状況でした。芝1600~1800で上がり上位を連発していたジュンライトボルトが視覚的に桁違いの瞬発力を魅せたことにも合点がいきます。

クラウンプライドはトニービンホワイトマズルアグネスタキオンキングカメハメハリーチザクラウンと日本芝指向の血統を重ねています。ただし、全体的には米国色を強めています。

サウジカップはパンサラッサがハイペース(4F通過:45.85秒)に引き込み、クラウンプライドは強気先行も末脚伸ばせずジリジリで5着。ドバイワールドCでは前後半59.30→63.95という前掛かりな展開で道中脚を溜める競馬でも目立つほど末脚伸ばせず5着。

このような戦績からも判断されるように安定した先行力やや末脚不足という能力バランスから後者の血統の影響を強く受けているようです。

しかし悲観する必要はなく、海外の厳しいレースで鍛えられてきたことは貴重な経験値でもあります。23年帝王賞で高速決着が得意なテーオーケインズに競り勝ったことは見事な成長だと感じます。チャンピオンズCは先行力や立ち回りの巧さが優位性を持ち、リピーター発生率が高いこと、中京1800でリーチザクラウン産駒の好走率が高いことなどからも安定した走りを魅せることが可能では。

 

■メイショウハリオ

2:06.5 36.0-38.0-25.8-25.3 5着 23年JBCクラシック

2:01.9 35.1-37.5-25.4-23.9 1着 23年帝王賞

2:05.8 37.3-38.1-24.4-25.2 3着 22年東京大賞典

2:03.3 36.7-37.7-25.0-24.4 1着 22年帝王賞

メイショウハリオの大井2000mでの成績は上記のとおり。端的に時計の早い決着と時計の遅い決着ではパフォーマンスの優劣が発生していることがうかがえます。今年のJBCクラシックは砂を入れ替え後に行われており、タフな質感の馬場は芝指向のスピードを主体に戦うメイショウハリオにとっては好走域からズレる条件でした。さらに前走は最後の直線で伸びないインを選択したことも終いの伸びに影響を与えたと考えられます。

また、メイショウハリオは芝指向のスピードと失速耐性を末脚に叩き込むタイプなので、どうしても外的要因の助けが必要です。それを裏付けるようにG1・3勝は前掛かりや早仕掛けというように先行馬たちが非効率的な走りをさせられるシーンがみられます。前走は1角3番手以内の馬がそのまま1,2,3着となるレースでした。

このように、前走JBCクラシックは馬場・前後・内外すべてがメイショウハリオに逆風を吹かせていたための凡走だったことが分かります。

 

中京1800mは阪神1800・中山1800に比べて芝指向のスピードが活かしやすいコースです。また、天気予報から良馬場の開催濃厚ということから、道悪時よりも前後の差が生まれにくい状況となりそうです。前走の大井からコースが替わることはもちろん、頭数増・先行馬増から条件好転は間違いなさそうです。また、競馬界のクッパと評価したセラフィックコールが自身のトップスピードを最大限生かすために外々を進出していくようであれば、終盤へむけた圧力が馬群全体に圧し掛かります。これはメイショウハリオのG1勝利必要条件でもある「外的要因」となりえます。

とはいえ外々を回して末脚を伸ばすかたちは、かなり恵まれないと上位進出は叶いません。そのデモンストレーションとして伸びないインを選択したという前走があるのだとしたら、ここは浜中騎手の伏線回収に期待するのも手ではないでしょうか。フェブラリーS好走からも差し馬にとって必要な芝指向のスピードは十分に兼ね備えていることが再確認できています。ダート重賞において末脚優位馬を買うのはある程度の覚悟が必要ですが、複数の条件好転かつ自身の好走条件が揃うであろう今回は、その覚悟を持って評価すべき1頭であると考えます。

 

 

■結論

 

本命は、◎メイショウハリオ

 

狙うはサウンドトゥルー以来の6歳馬勝利。脚質的にはやや博打要素ありでも、その覚悟を持って本命を打てるだけの論拠ありとみます。上位は23年帝王賞の1~3着馬を想定。テーオーケインズは全盛期の75%の能力と想定。引退が決まり渾身の仕上げから下駄を履かせてプラスアルファがあるのではということで、対抗。お手馬多数の川田騎手が選んだクラウンプライド。「祐一さん、僕『は』勝ちましたよ」というシーンもありか。チャンピオンズCとしてはややタフな質感に寄るとみてグロリアムンディ・ハギノアレグリアスを連下の評価。

 

【南部杯回顧】~レモンポップの可能性~

www.youtube.com

ppr.keiba.go.jp

■レモンポップの可能性

12.8-11.5-11.5-11.6-11.6-11.4-11.5-11.9 / 1:33.8 (Nearco測定値)

あくまで個人測定値ではあるという前置きをしたうえで、このラップはお見事というほかない。その賛美はレモンポップにだけ贈られるものではなく、もちろん勝利に導いた坂井瑠星騎手にも贈られる。

 

 

坂井瑠星騎手は100点満点の騎乗を難なくやってのけました。南部杯が1400m適性のある馬が好走しやすい(≒距離短縮指向のレース質感になりやすい)ことを考えると、レモンポップはこれまでにない打点を叩き出したと考えられ、「最高打点120点×100%の騎乗」=120点のレースでした。

一方で、「高速ワンターンマイル」は大得意とするカフェファラオと高松亮騎手は初コンビがゆえの難しさがあったことは想像に容易いはずです。端的にいえば可もなく不可もなくかつ千載一遇のチャンスで攻めの騎乗もなくということから70点の騎乗。よって「最高打点120点×70%騎乗」=84点のレースでした。さらにカフェファラオに関してはバリバリ米国血統の6歳秋ということから成長曲線の斜陽による能力減退や、陣営が果敢に距離延長指向のレースを狙ってきたことによる南部杯適性不足(距離短縮指向の能力不足)を考慮すると点数としてはさらに低くなっている可能性もあると考えられます。

このように2頭の差は40点超となり、フェブラリー連覇&レコードホルダーのカフェファラオと現フェブラリーホースのレモンポップにクッキリと明暗が分かれたのも理解できるのではないでしょうか。

 

12.8-11.5-11.5-11.6-11.6-11.4-11.5-11.9 / 1:33.8 (Nearco測定値)

さて、冒頭で示したレースラップに戻りましょう。ハナを奪いそのままゴールしたレモンポップの個別ラップでもあります。まず見事なのがテンとラストを除いた約1200mで11.4~11.6秒を刻み続けた点です。いわゆるエネルギー効率の良い走りをした好例となります。時計の出方次第では、それこそアルクトスがレコードを叩き出した時と同じような馬場であれば新レコードが出ていた可能性は非常に高いと思われます。

news.yahoo.co.jp

南部杯の前日に行われたシカゴ・マラソンでは男子の世界新記録が誕生してました。初の2時間1分切りでいよいよ2時間の壁越えが見えてきた歴史的瞬間でもありました。このレコードを叩き出したキプトゥム選手の40kmまでの5km毎のラップタイムがこちら。

14.26-14.16-14.27-14.30-14.25-14.27-13.51-14.01

さすがにコース形態までは把握していないのでそのあたりはご容赦願いたいのですが、14分30秒を刻み続けて、終盤ひとつ勝負に出て、失速耐性を活かして終いまで脚を伸ばしたというラップバランスとなっています。レコードが出るときは得てしてこのようなエネルギー効率の良い走りをするものです。

競馬におけるレコードは馬場の影響も大きく受けますので「エネルギー効率の良い走り即ちレコードタイム」とはなりませんが、必要条件と十分条件の関係性ではあるといえます。

 

レモンポップの次走はBCダートマイル・JBCスプリント・チャンピオンズCのうちから熟慮するとのこと。個人的にはBCダートマイルで是非ともその能力を全開にしてもらいたいと考えます。1400mで楽々先行することやドバイGSでの経験から先行力>末脚力という能力バランスで、南部杯圧勝からも距離短縮指向の能力適性は間違いなくあります。くわえて南部杯で魅せた巡航速度の速さとその維持力は米国ダートマイル戦ならば十分に戦えるスピードレンジにあります。さらに、大出遅れのメイショウハリオが突っ込んできたフェブラリーSでは前後厳しいなかでも優勝したように失速耐性も兼ね備えています。

先行力、スピード維持力、失速耐性。レモンポップの武器となるこの3つの能力が活きるのは、JBCスプリントでもチャンピオンズCでもなく、BCダートマイルであると断言します。陣営の英断を待ちつつ、個人的な願望とさせていただきます。

 

■備考

南部杯はやはり距離短縮指向の先行馬重視

・イグナイターはこの一年のレース経験により成長していた

・イグナイターは昨年と違い、ひと叩きしてココ狙ってきた

・1,5着馬の競馬点40点超差が開いたところに2,3,4着馬が飛び込んできた

・カフェファラオは見限れないが次の適鞍は2024年フェブラリーS

・カフェファラオは米国濃厚血統で成長力斜陽

・高松亮騎手は罵詈雑言を浴びせられる騎乗はしていない

・ジオグリフは全体的なスピードが武器なので芝中距離の周回コースでこそ

・昨年も言及したがこちらのサイトはどうにもラップ把握がひどい

第36回マイルチャンピオンシップ南部杯JpnI |web Furlong

・テン3ハロンが36.7秒は驚愕。

・吉原でもソリストサンダーは無理。

ソリストサンダーは距離延長指向のマイラー&末脚優位馬で南部杯適性と真逆。