【日本ダービー2024】

■激走馬考察編

日本ダービーを人気薄で好走する激走馬の共通点を炙り出し、それを先行粘走力に求めたいわゆるNerco理論。残念ながらNerco理論はすでに破綻しており、昨年ピックアップしたベラジオオペラ(本命)が馬券外。9番人気ながら4着という言葉だけを捉えればよくやったといえるかもしれませんが、馬券師として勝負している以上「惜しい」は死そのものでいわゆるNerco理論の信憑性は地に落ちたといえます。

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Nerco理論の詳細は上記を拝読願うとして、今年の日本ダービーで先行率50%以上を保持するのは以下のメンバーとなります。

100% 34.3秒 ダノンエアズロック (上がり最速勝利)

100% 34.2秒 シックスペンス (上がり最速勝利&スプリングS1着)

100% 33.6秒 ジャスティンミラノ (皐月賞1着)

 75% 34.4秒 シュガークン (上がり最速勝利&阪神2000[未勝利])

 67% 35.5秒 メイショウタバル (上がり最速勝利&阪神2000[未勝利])

 67% 35.1秒 サンライズアース (すみれS1着)

 60% 34.9秒 シンエンペラー (ホープフルS2着)

 60% 34.4秒 エコロヴァルツ (上がり最速勝利)

 60% 34.3秒 ショウナンラプンタ (上がり最速勝利&阪神2000[新馬])

 56% 34.5秒 ジューンテイク (上がり最速勝利&すみれS2着)

 50% 34.6秒 ダノンデサイル (京成杯1着)

 50% 35.7秒 サンライズジパング (上がり最速勝利)

 50% 34.0秒 レガレイラ (上がり最速勝利&ホープフルS1着)

 

・上がり3F:35.1秒

・先行率:86%

上がり最速勝利あり

急坂コース連対あり(オープンクラスなら尚良い)

内~中枠

 

―—ジューンテイク

先行力とワンペース気味の末脚を主張。サンデーサイレンス 3x3Lyphard 5x4のクロスを持ちますが全体的には日欧米が配置される血統で末脚のキレやその成長はそこそこ止まり。こうやまき特別や京都新聞杯は緩急の大きな展開を先行策から上がり最速での勝利。先行率56%は低いですが、今回のダービー出走馬で最短距離の1400m勝ちのある馬。先行するのはワケないはずです。過去の好走条件に照らすと、上がり数値で近似値の34.5秒を持ちながら「上がり最速勝利」「急坂コース連対あり(オープンクラスなら尚良い)」の両方を満たします。懸念はマイル以下向きのスピード対応力が2400mでは足枷となる可能性がありそうなこと。血統構成はアドミラブル(青葉賞馬・2017年日本ダービー3着)に近い。

 

―—シュガークン

先行力とワンペース気味の末脚を主張。Lyphard 4x4を持つ半兄キタサンブラックとは違い、ドゥラメンテが父とはいえノーザンテースト 5x4やNasrullah系が多く、末脚の成長力にあまり期待できないかもしれません。ここで期待されるのは先行力や失速耐性を武器に武豊騎手がその能力を最大限引き出すことでしょう。全体的な焦点は中団~後方になるでしょうから、盲点となる先行馬たちは目標とされる度合いが薄まります。性格なラップを刻むことのできる武豊騎手ならばアッと言わせるシーンがあっても不思議ではありません。過去の好走条件に照らすと「上がり最速勝利」「急坂コース連対あり(オープンクラスなら尚良い)」の両方に該当しますが、上がり数値が34.4秒とやや軽いのが気になります。懸念はこの上がり数値の軽さ≒経験値不足による失速耐性が鍛えあげられていないことです。

 

過去の激走馬と照らしてジューンテイク・シュガークンを取り上げましたが、距離短縮指向のスピードが強すぎることや鍛錬不足により能力全開が叶わない可能性などが懸念として強く主張しています。次いでピックアップするとすればメイショウタバルですが、能力の高さとは裏腹にロジャーバローズ的競馬をするにはあまりにも好走ゾーンがタイトです。いくら人気薄でもこれでは博打的要素が強くなります。さらにサンライズアース(35.1秒/すみれS1着)は前半緩く→後半ロングスパートという競馬が向くタイプで、先行粘走力からダービー激走を見出すNerco理論からはズレます。皐月賞4角膨らんで競馬にならずもゴール後体力有り余っている様子などからは面白そうなんですけどね。しかしながら、どうやら今年はNerco理論から本命馬を選出するのは難しい状況となっているようです。

 

 

 

■結論

2017年の将棋界は大きく注目を集めた年でした。

・史上最年長プロ棋士で「ひふみん」の愛称で親しまれた加藤一二三九段が現役引退。

・史上最年少プロ棋士藤井聡太四段がデビュー戦から公式戦新記録29連勝を達成。
羽生善治棋聖竜王戦で勝利し、史上初の「永世七冠」を達成。

晩年はバラエティ番組にも出演するなど多くの国民に愛されたひふみんの現役引退は寂しいものがありましたし、藤井フィーバーに沸くなかで羽生さんが永世七冠達成したことはどこか意地を感じさせるものがありました。このふたり、羽生善治vs加藤一二三といえばやはりあの伝説の棋譜「5二銀」がでた1989年のNHK杯

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これはぜひ映像で見ていただきたい対局(お時間がない方は9:20からがおすすめ)です。終盤。加藤九段が1八飛車で攻めの一手から、羽生五段が防戦の状況。最終的に2七銀で防戦するための手順を米長先生が丁寧に解説しています。米長先生の手順通り王手・王手と攻めても、その攻撃はあくまで防御のための攻撃。やはり誰しもが加藤九段の攻めを羽生五段がどういなすかという状況だと思い込んでいました。

そこで出たのが鬼手「5二銀」。攻撃のための攻撃。それを繰り出したのが当時無冠の羽生五段でした。ギリギリ詰まないという読みから攻撃に転じ、しかもこちらはギリギリ詰めるという状況。当時この一手を見た私の感情は「??」から「!?」にかわり「!!!?」と変化。米長先生の迅速な解説によりさらにその詳細が分かるとスゴすぎて震えたことを思い出します。驚天動地、驚嘆、センセーショナル、どの言葉でもいい表せないことに語彙力のなさを隠しきれませんが、とにかくこの一手に受けた当時の感情は今でも忘れません。

このいわゆる必殺となる「5二銀」が打たれたのち、解説・米長先生の「おぉぉぉぉ、やった!」という雄たけびが響きます。と同時に、驚きを隠せないのか加藤九段が銀を幾度となく触るシーンが映ります。ここがハイライト。この鬼手を打った羽生五段のすごさは言うまでもありませんが、加藤九段の挙動や米長先生の名解説などを含めて素晴らしいシーンに仕上がっています。それゆえにいまだ語り継がれる伝説の対局なのでしょうね。

 

さて、話は戻り、将棋界が加藤・羽生・藤井でおおいに沸き注目されていた2017年。

 

その2017年の皐月賞を制したのはアルアイン

 

 

1:57.8という当時のレコードを樹立しての優勝。しかしながらこの皐月賞1,2,3着となったアルアインペルシアンナイト・ダンビュライトは日本ダービーでは5,6,7着に着順を落としています。近年で皐月賞レコードを樹立したのはほかに2013年と2016年。

 

 

レコード決着となった皐月賞で追走力を活かしながら好走したロゴタイプコディーノリオンディーズアルアインペルシアンナイト、ダンビュライトは日本ダービーで人気を裏切るかたちで凡走しています。

ここでひとつの仮説が浮上します。『高速決着想定では距離短縮指向のスピードを持つ馬を狙う』のが皐月賞の鉄則であるならば、逆説的に『高速決着の皐月賞で好走した馬は距離延長適性を疑うべき』であるともいえるということです。

 

5着 [11ー08] 上がり4位 → 10人気 0.4.差 8着 タマモベストプレイ

6着 [16ー14] 上がり2位 → 14人気 0.4差 6着  テイエムイナズマ

1着 [12ー10] 上がり2位 → 1人気 0.1差 3着 ディーマジェスティ

2着 [15ー13] 上がり1位 → 3人気 0.0先 1着 マカヒキ

3着 [09ー05] 上がり3位 → 2人気 0.0差 2着 サトノダイヤモンド

5着 [16ー14] 上がり2位 → 1人気 0.1先 1着 レイデオロ

6着 [11ー10] 上がり4位 → 3人気 0.1差 2着 スワーヴリチャード

 

上記はレコード皐月賞で後方から末脚のみで上位に浮上した馬たちの日本ダービー成績を示したものです。左から皐月賞着順・[3角ー4角]通過順位・上がり3F順位・日本ダービーでの人気,着差,着順を記しています。

上位人気馬がしっかりと期待に応えて好走していることのみならず、ふた桁人気のいわゆる爆穴的存在であるタマモベストプレイテイエムイナズマが3着から0.1秒差のところまで迫っていることからも、やはり狙いは『レコード決着の皐月賞を末脚のみで上位に浮上した馬』ということになります。

 


今年の皐月賞は従来の記録を0.7秒も上回る大レコード決着でした。3着ジャンタルマンタルが朝日杯FSに続きNHKマイルCも堂々の勝利という一流マイラー。これはこれまでのレコード皐月賞でも上位に浮上したロゴタイプコディーノリオンディーズペルシアンナイトからも分かるように高速決着ゆえに距離短縮指向のスピードが活きたかたちでの好走です。

 

 

今年の皐月賞はハイペースで逃げたメイショウタバルを除いて皐月賞を俯瞰すると、隊列は二分していたことが分かります。こちらは2角から向こう正面に向かっているシーン。好走グループ(青枠)凡走グループ(紫枠)という2つの隊列が存在しています。それを踏まえて、各馬の前後半5F推移をみるとこのようになります。

 

59.0-58.1(34.7) 1:57.1 1着 ジャスティンミラノ(上がり5位)

59.2-57.9(34.2) 1:57.1 2着 コスモキュランダ(上がり3位)

60.1-57.4(34.1) 1:57.5 5着 アーバンシック(上がり2位)

60.2-57.4(33.9) 1:57.6 6着 レガレイラ(上がり1位)

60.6‐57.2(33.9) 1:57.8 7着 エコロヴァルツ(上がり1位)

 

ジャスティンミラノは共同通信杯のような緩いレースしか経験がありませんでしたが、未経験の早いペースを追走して末脚もしっかり発揮できたことは評価すべきです。これはジャスティンミラノが未経験でも器の大きさで対応してしまう天才型だったということでしょう。

共同通信杯のラスト2F特化型レースでそのスピードを末脚に叩き込み、一転して全体的なスピードを要求された皐月賞でもこのパフォーマンスを発揮したことから中距離適性にスペシャリティを感じざるをえません。これはイギリス芝約1000mのGⅠ勝ちのある母マーゴットディドのスピードを父キズナで距離延長指向にシフト≒スピード性能を活かした中距離適性の優秀さを示唆していると考えられます。思えば、2017年皐月賞アルアインとは「母が短距離GⅠ馬」「雄大な馬格」「レコード勝利」などで共通点が浮かび上がります。

ジャスティンミラノの打点の高さは素直に評価すべきポイントですが、中距離適性の高さゆえに距離延長となる日本ダービーでは前走ほどのパフォーマンスが発揮できない可能性があります。無敗の皐月賞馬で日本人が好きな馬柱のキレイさもあいまって単勝1番人気は間違いないでしょうが、単勝の期待値としては高くないと評価します。

 

そして2017年皐月賞アルアインを父に持つのがコスモキュランダ。この馬も前半1000mを59.2秒で走ったのは自身初。それでいて上がり3Fはメンバー中3位の末脚を繰り出しました。これは早々にポジションを取った好騎乗や、隊列が二分した最後方に位置することでスペースが大きくゆったりと走れたという幸運が重なったこともありますが、「全体的なスピードを活かしつつ末脚を使う」のがこの馬の本質だったことを表しているのではないでしょうか。

 

一方で、好走圏外グループに位置したアーバンシック・レガレイラ・エコロヴァルツ。特にアーバンシックとレガレイラは序盤の追走力が乏しいということが如実に表れました。この2頭は酷似した血統構成。父スワーヴリチャードは”Nasrullah”を9本(8×8×7×7×8×8×8×6×7)持っている種牡馬です。アーバンシック・レガレイラの母はNasrullahを4本(8×9×9×8)しか持ちません。備考として同じくスワーヴリチャード産駒のコラソンビートの母はNasrullah6本、アドマイヤベルの母はNasrullah5本、スイープフィートの母はNasrullah8本を持っています。

Nasrullahクロスを最小限に抑えつつ、サンデーサイレンスLyphardのクロスが主張されることでレース後半のスピードや末脚の成長が促されます。こういった血統背景を考えると距離短縮指向の全体的スピードが活きやすいレコード決着の皐月賞で凡走するのは無理もないと考えることができ、むしろ末脚だけで浮上したことを評価すべきです。

 


あの日、◎スワーヴリチャードの単勝を握りしめていた私はルメール騎手の超絶技巧に悶絶していたことを思い出します。そのスワーヴリチャードの息子アーバンシック・娘レガレイラが父の雪辱を果たさんとスタンバイ。

この2頭は血統構成から、マイル指向のスピード不足、末脚の総合力の高さと成長力への期待などが酷似しています。例年の傾向から日本ダービーは500kg超の大型馬が不振傾向にあるため、後者レガレイラを上に評価したいところです。しかしながら今年は近年最多4頭を上回る9頭(前走時点)ものデカ馬が出走。そこまでナーバスになる必要はないかもしれません。むしろ、初G1騎乗を日本ダービーで迎えハイペースの逃げで15着(6人気)しながら「レース自体に悔いは残さなかった」とキッパリいえる横山武史騎手の胆力が際立ちます。1番人気で迎えた近年よりも大きく勝負できる立ち位置は、器用ではないアーバンシックの能力を最大限引き出せる可能性があります。よって2頭の評価はイーブンとします。

なお、日本ダービー2着馬の産駒がダービー馬になった事例はほとんどありません。グレード制導入後ではハーツクライ産駒のドウデュースが優勝しただけ。そのハーツクライの血をひくスワーヴリチャードには「ダービーの雪辱を果たす資質」が流れているはずです。あの日の私の悶絶もここで昇華させ素晴らしいダービーにしたいと考えます。

 

禁断の2頭本命で臨む第91回日本ダービーに幸あれ―――。

 

◎アーバンシック

◎レガレイラ