【日本ダービー結論編】

・ソールオリエンス

23.2-23.5-24.2-25.2-24.5 / 2:00.6 皐月賞

非凡な実力に展開が加わったことでその「鮮やかさ」はより鮮明となりましたが、展開だけでここまで浮上し勝ち切ることはできません。京成杯は低レベルでしたし、ソールオリエンス自体も立ち回りの幼さなど完成度という点ではまだまだでした。だからこそ魅せたゴール直前の末脚が非凡そのものでした。スタミナ・スピードともに問題なく末脚の総合力も高いといった能力はおおむね人気に見合った走りをしてくるでしょう。

2016 [14‐14‐12ー10] ディーマジェスティ

2012 [18‐18‐17‐06] ゴールドシップ

2005 [15‐16‐09‐09] ディープインパクト

2000 [15‐15‐15ー08] エアシャカール

1998 [14-14-11-08] テイエムオペラオー

1993 [18‐17‐15ー12] ナリタタイシン

上記は追い込み優勝の皐月賞馬。ダービーでの成績は[1.1.3.1]です。展開が向いても追い込みで皐月賞を勝つのは難しいレースですので、総合力の疑いようがないことはこの成績からも立証されているようです。

ソールオリエンスの母系は欧州色が濃い血統で、凱旋門賞馬(Sadler's Wells・MontjeuRainbow Quest)を複数内包しています。ここにキタサンブラックを迎えたことでダービーでは高いレベルでの急加速力不足が懸念材料となりそうです。ディープインパクト産駒が日本ダービー不在は13年ぶり≒サンデーの代重ねが進んだことから血統の転換期を迎えている日本競馬界では、全体的にキレの鈍化が見られそうなので杞憂に終わる可能性はありますが、東京2400mでペースの落ち着きかつ緩急の大きさは今回の皐月賞と真逆の質感となります。つまりは、皐月賞とは真逆の質感でパフォーマンスを上げてくるであろう馬がいる場合、ライバルはその馬となります。

皐月賞回顧でも触れたようにやはり横山武史騎手はエフフォーリアで挑んだダービーが強く悔やんでいるようです(記事)。一気にアクセルを踏んだがゆえに最後の最後で末脚が鈍ったところをディープインパクト産駒のシャフリヤールに狙われて悔しすぎる惜敗となったのが2021年日本ダービー。その経験を活かすようであれば、ソールオリエンスのダービー制覇も見えてきます。最後はすべて騎手力に委ねられたと思います。

 

・タスティエーラ

スタミナを主体とした持続力優位の中距離馬。共同通信杯でキレ負け、緩い流れからロングスパート勝負となった弥生賞では4角から追い通しでも最後まで伸びてくる競馬。さらに、皐月賞は前半59.6秒で折り返したにも関わらず後半でも61.2秒で駆け抜けるといった「失速耐性と末脚の持続力」の優秀さを魅せています。皐月賞は前半58.5~59.3秒で逃げ先行したグラニット・タッチウッド・ベラジオオペラが後半は63.1~64.4秒と失速していることを考えるとタスティエーラの優秀さが実感できるのではないでしょうか。

このことからタスティエーラは「消耗戦に強い自力勝負型」というキャラを確定させることができます。皐月賞当時は皐月賞回顧で触れているように相当時計の掛かる馬場でした。それにハイペースが加わり、先行勢には失速耐性やスタミナが大きく問われた一戦でした。サトノクラウン×マンハッタンカフェという血統構成からも適性は抜群だったようです。転じて、日本ダービーでは直線での急加速力やトップスピードが問われることから違ったベクトルの適性が要求されます。共同通信杯でキレ負けした事実や血統的にキレの成長が見込み薄であること、日本ダービーが消耗戦得意の自力勝負型に不向きなレースであることなどから前走同様のパフォーマンスを発揮することは疑ってかかりたいです。

 

・ファントムシーフ

35.3-25.2-23.7-22.8 1:47.0 共同通信杯

23.5-25.3-25.2-23.8-22.4 2:00.2 野路菊S

欧州色の強い血統かつ日本的主流血統を持ちません。それにもかかわらず新馬戦では阪神1600で末脚がキレ、つづく野路菊Sでも上がり特化型の着差がつきにくいレースを抜け出しました(キックバックを受ける教育的競馬のオマケつき)。共同通信杯は無理せず前目につけつつ末脚を引き出したルメール騎手の好騎乗が光りました。序盤早く、中盤緩く、終盤はミドルスパート気味で、全体としては緩急の大きいかつ末脚のトップスピードの要求度が大きいレースでした。父ハービンジャー×母父Medagriad'OroでDansili同血2×2のクロス持ち。さらにはNorthernDancer5×5×5×5という血統。コテコテになりそうな質感ですが、ここまでの走りからトップスピードは問題ない水準にあります。さすがに急加速力では日本主流血統を主張する馬たちには劣りますので、緩急の少ない競馬や斤量やコース形態の負荷が大きい状況で武器となる持続力を主体とした総合力の高さを活かしたいところです。

皐月賞ルメール騎手が秀逸な時計感覚をもとに100点満点の騎乗で3着でした。混戦の皐月賞であったこと、ジョッキーカメラからソールオリエンスをマークしている素振りが感じられないことなどから、ファントムシーフのこの位置取りはルメール騎手が自分で選択したものということになります。そこで刻んだタイムは前後半60.2→60.9秒。出来得るかぎりイーブンラップで効率の良い走りを心掛けていたことがうかがえます。終盤の脚力が強烈な馬、強烈な失速耐性を持つ馬が前にいただけで、この3着は満点騎乗のもとで生み出された結果だということになります。

ファントムシーフ自身は日本ダービーに向けて、急加速力不足が喫緊の課題となりそうです。成長による補完は血統的に望みが薄く、騎手によるポジショニングや追い出しのタイミングなどでキレに秀でる馬を相手にどこまで対抗できるかが結果に直結してきそうです。

武豊騎手の手替わりはこれまた秀逸な時計感覚の持ち主≒エネルギー効率の良い走りをさせる騎手ですからなんの問題もありません。実力上位ではありますが、日本ダービー向きの末脚キレ不足や満点騎乗で3着までだった皐月賞からさらに上積みを出せるかは疑問です。

 

・スキルヴィング

35.4-37.7-24.3-23.1-23.4 2:23.9 青葉賞

持続力優位な末脚の総合力が高い中長距離馬。ややロングスパート勝負となった青葉賞では安全策から末脚を伸ばして突き抜ける。4戦連続524kgの大型馬で、トップスピードまでは時間を要するもその持続性に非凡なところがありそうです。ゴールに向かってピーキーさせるような末脚の使い方を得意とするルメール騎手には非常に手が合います。

ここでの懸念材料はスピード不足。ここでいうスピード不足はレース全体に対する対応力と変換しておきましょう。「日本活躍馬を多数送り出している牝系・SSクロス持ち・母父シンボリクリスエス・父はSS孫種牡馬・全体的には欧州色優位」という血統構成は厩舎先輩で青葉賞馬のオーソリティと酷似しています。ダート馬も出る牝系で牝馬であれば男勝りな末脚が中距離近辺で効きますが、牡馬では芝で重厚な末脚が中長距離で威力を発揮します。レースぶりから距離短縮指向の適性が確認できればそれら傾向を否定できますが、スキルヴィングはその点において未確認。さらなる時計短縮の要求や大型馬らしいパワフルな末脚から詰めが甘くなることを想定しておきたいです。

 

 

■結論

 

本命は、ベラジオオペラ

 

軽快なスピードと末脚のバランスが良く、レースセンスに優れる中距離馬です。

アイドリームドアドリーム一族のエア冠馬には活躍馬が多数。3代母エアデジャヴー牝馬三冠ですべて善戦。その仔やエアシェイディエアメサイア、近親エアシャカールエアソミュールらは中距離戦線で活躍しました。スタミナ指向の一族に、ハービンジャーを重ねてロードカナロアでそれらを引き出しているといった具合が血統全体の印象となります。

35.4-24.0-24.7-24.8 1:48.9 スプリングS

35.9-25.4-24.1-22.6 1:48.0 セントポーリア賞

36.9-25.1-24.0-22.0 1:48.0 新馬

デビュー戦、セントポーリア賞と前半が緩く上がり特化型のレースを2連勝。つづくスプリングSは戦前から追走力の忙しさによりパフォーマンスが伸び悩むのではという懸念を払拭。序盤が早く→中盤も引き締まり終いバテというレースラップ。序盤はダッシュを効かせポジションを取り、中団追走でもこれまでよりだいぶ追走力を引き上げながら、終盤では上がり最速で突き抜けました。「ハイペース追走」「余力減少での末脚発揮」という2点は評価に値するものです。

皐月賞では前後半59.3→63.1秒という走り。主たる敗因としてはオーバーペースにつきますが、軽快なスピードと末脚のバランスを武器とするベラジオオペラにとって道悪馬場での消耗戦は適性外のレースだったともいえます。また重馬場のスプリングSを好走→中3週で再輸送というローテーションも過密日程でした。ソールオリエンスの逆手前コーナリングが話題にあがりますが、ベラジオオペラも4角手前で逆手前となり逸走しかけています。トビの大きな馬です。中山→東京替わりはフットワーク的にも向きますし、道悪の皐月賞→良馬場の日本ダービーは自身の武器を活かしやすい舞台となります。

レースの中心はソールオリエンスやスキルヴィングといった末脚優位馬です。焦点が後ろならば盲点は前。日本ダービー激走考察編で触れたように従来であれば激走候補に挙がりそうな、ドゥラエレーデやパクスオトマニカ、ホウオウビスケッツやトップナイフらは枠順や上がり最速勝利などひと押しとなる材料が足りません。ならばもう一列後ろから激走候補を探します。「上がり最速勝利&オープンクラスの急坂コース勝利&最内枠」のコンボを決めたベラジオオペラを今年の激走候補に推します。

良馬場の日本ダービーで軽快なスピードと末脚のバランスに優れた能力を存分に発揮し、最内枠からレースセンスの良さをもって立ち回ってくれば一発魅せることは可能と判断しました。

 

――――今年もよい日本ダービーを。