【有馬記念/各馬評】

■スターズオンアース

好走域の広いタフな牝馬。マイル対応の巡航速度と中距離で上がり上位を連発できる末脚が武器で、両立できるレースは前走ジャパンCのような大回りかつ中長距離で直線も長いコース形態でこそ。大阪杯ヴィクトリアマイルで1番人気を裏切り、人気の落ち着いたジャパンCで好走。前走の好走や全体的な安定感から有馬記念では上位人気が見込まれますが、ここでは一歩立ち止まって考える必要がありそうです。

有馬記念は序盤~中盤の巡航速度よりも、中盤~終盤にかけての持続力に重要度の比重があるレースです。全体的な巡航速度と末脚の両立が高いレベルで求められるジャパンCとは端的に真逆の適性が問われると考えることもできます。大回りかつ直線の長いコースから小回りかつコーナー6回で直線の短いコースへの転戦は、コース形態や起伏が求められる能力の方向性の違いを意味します。

イメージとしてはかつて同様に桜花賞オークスを制し三冠を狙うも秋華賞3着となったブエナビスタを彷彿とさせます。ブエナビスタも男勝りのタフな牝馬で、その好走域の広さはいうまでもありません。ただ、ブエナビスタは小回りコースのG1で未勝利でした。マイルG1でも好走できるほどのスピードを持つことが、小回りコース特有の中盤以降の持続力勝負に対して適性としてややズレているのだと考えられます。現状、戦績的にも劣るスターズオンアースがここで殻を破って小回りG1勝利というのは難しい状況にあると考えます。この状況で人気するようであれば期待値は低いのではないでしょうか。

 

■タイトルホルダー

全体的なスピードとスタミナに裏打ちされた秀逸な失速耐性が武器。

ここでの懸念は他同型との兼ね合いとピークアウトしている可能性。

日本主流血統の結晶的なドゥラメンテを父に持ちながら、Sadler's Wells疑似クロス・Mill Reefクロスを持つようにタフさ強化の主張が強く戦績に表れています。前走ジャパンCでは内枠でも前後関係での立ち回りが非常に難しい状況にあり、先行力の優位性を最大限に生かすにはパンサラッサを無視した絶妙なペース配分が必要でした。当然にコース替わりは条件好転でしかありません。

42.1-38.3-24.2-24.1-23.7 2:23.4 22年有馬記念

33.9-23.7-24.0-23.7-24.4 2:09.7 22年宝塚記念

36.5-35.9-38.3-37.2-23.4-24.9 3:16.2 22年天皇賞(春)

昨年はアスクビクターモアの回避によりかなり気楽な立場でしたが、結果的にキレ負け。圧巻だった宝塚記念天皇賞(春)ではラップバランスからも分かるように、ハイペースやロングスパートというように"他馬がバテる”要素を仕掛けていました。22年有馬記念は外枠から出足悪く(騎手談)なったためか、序盤で早々に緩め、終盤でも仕掛けることなく末脚優位な馬たちが余力十分に立ち回ってきたという状況。これがキレ負けしたことの最大要因であり、バテる要素を仕掛けるどころか自分の土俵から飛び降りるような競馬をしていたことが分かります。

今年も昨年同様にタイトルホルダーのペースメイクを邪魔するような馬は見当たりません。引退レースということもあり中途半端な競馬はしてこないと考えます。バテバテのスタミナ勝負に持ち込んで良い勝負ができるのではないでしょうか。ピークアウトしていないのならば・・・。

 

ジャスティンパレス

雄大なフットワークが特徴のディープインパクト産駒

失速耐性と持続力優位の末脚が武器。

悲願のG1制覇となった天皇賞(春)は例年に比べて緩急の大きい展開。1枠1番から向こう正面手前で外々に持ち出す鞍上の素晴らしい騎乗。雄大なフットワークから大回りの京都外回り、急加速力不足を終盤の下り坂が補完というように適性の合致が認められました。一方で、その後の宝塚記念では600m付近から追い出しややガス欠、天皇賞(秋)ではレースに付き合わず漁夫の利的に末脚を伸ばすというレース内容です。

天皇賞(秋)

このことからも、着順だけでなくレース内容からも天皇賞(春)が相対的に高いパフォーマンスであったことが分かります。なお、阪神大賞典はかなり緩い展開を内々の番手で運び、直線手前まで仕掛けを待っての勝利でした。天皇賞(春)が最も高いパフォーマンス≒ジャスティンパレスが光り輝く舞台であることは、雄大なフットワークや持続力優位の末脚が武器であることのゆるぎない証拠となります。

持続力優位の末脚は有馬記念で要求度の高い能力ですが、一方で雄大なフットワークは中山内回りのコーナーを6回通過(スタートから最初の4角までの距離は192m)する適性を持ち合わせていません。これではジャスティンパレスの特徴と武器を両立させることが難しくなります。

古馬となりグッと成長した姿を魅せてきたジャスティンパレスですが、G1は片翼で羽ばたけるほど甘い舞台ではありません。タイトルホルダーらを中心にタイトかつ仕掛け前倒しの競馬となることを信じ、漁夫の利で突っ込んできた天皇賞(秋)の再現をしようにも東京2000と中山2500では直線の長さが違います。ましてや、今度は背負う人気からも"勝ちにいく競馬”が求められる立場となりますから、展開待ちという良くも悪くもハナから消極的な競馬を選択することは想像しづらいです。

どこかで仕掛けるということは有馬記念の場合、ほとんどがコーナー区間での出来事です。その場合、雄大なフットワークが邪魔をしてエネルギー消費が高まり、自慢の持続力を活かしても詰めが甘くなることでしょう。残り少ないディープインパクト産駒の上級馬として、来年の天皇賞(春)を是非とも目指して頑張って欲しいと思います。

 

■シャフリヤール

キレ優位の秀逸な末脚が武器。全体的スピードを武器とした全兄アルアインとの違いは馬格差(5歳秋で約70kg差)やキレ育成に定評のある藤原厩舎が影響している模様。軽い馬格からパワー指向の能力は薄く、日本ダービー以降の好走は2400mに偏っています。なお、日本ダービーは緩い序盤からの高速スパートでした。例年の有馬記念では持続力が優位性を持ちやすく、距離はよくても求められる適性がズレます。良馬場でも中山2500ではパフォーマンスを発揮するのは厳しそうです。

 

■ドウデュース

追走力と持続力優位の末脚を活かしやすい、高速馬場の中距離戦がベスト。

ここまでの戦績でスタミナ強化が図れるようなレースでの善戦や経験がなく、依然として朝日杯FSや日本ダービー(レコード)の勝利が目立ちます。ハーツクライ産駒でも米国色の強い血統構成から追走力が主体で、中距離以上でスタミナを要する場面ではパフォーマンスが伸び悩んでいます。今年は無念の出走取消となったドバイターフがベストな舞台だったと仮定すると、近年の有馬記念好走馬にそのようなタイプが見当たりません。距離延長指向の適性が薄く、起伏の大きいコースやタフさが求められる展開ではパフォーマンスが伸び悩むと考えます。

 

■ソールオリエンス

23年 京成杯 4コーナー(直線入口)

京成杯は緩い流れから直線だけで着差をつけた完勝≒性能の高さ証明しました。しかしながら、4コーナーでの走りからコーナリングが巧くないことが表面化しつつありました。いわゆる内傾がうまく出せないために、コーナーで加速力を生み出しにくい特徴を持ちます。

23年 皐月賞 4コーナー(L3F地点)

皐月賞でもその様子が発現。ソールオリエンスの顔の向きが進行方向よりも右側に向いていることが分かります。これは、逆手前となり逸走しかけたベラジオぺラも同様の顔向きであることが分かります。騎手が強い意志を持って「曲がれ」という指示を出していることの表れでもあります。

23年 皐月賞 4コーナー(L2F地点)

さらに200m進んだ場面。勝負所を迎えているソールオリエンスはスピードが乗っている状況。ここで鞍上の横山武史騎手はコーナーをタイトに回ることよりも、スムーズな加速を選択します。その結果がドリフト的な4角のコーナリングとなり、大外を回す進路取りとなりました。

23年 セントライト記念 4コーナー(残り約500m地点)

ひと夏を超え迎えたセントライト記念でも、状況はあまり変わっていません。

23年 菊花賞 4コーナー(残り約500m地点)

菊花賞では残り500mを切ったシーン。映像のとおり、内傾がうまく保たれていることが分かります。これは大回りの京都外回りだからこそできた内傾です。また、京都外回りの4角出口は「下り坂でスピードも乗っているので4角が90度ぐらいに感じるほどキツイ」という騎手もいるようです。このあとソールオリエンスは4角出口から外々に持ち出されていくことで、そのキツさを解消したのだと推測できます。

ここまでコーナリングシーンとともに振り返ってきたとおり、ソールオリエンスにとって小回りコースで「コーナーをタイトに回ること」と「スピードアップすること」はトレードオフの関係にあります。有馬記念は中山内回りのコーナーを6回。今回ポジションの意識が非常に高い川田騎手への乗り替わりですが、前々や内々での競馬に対応してパフォーマンスを上昇させるほどの適応力をソールオリエンスが持ち合わせているかは確認できていません。

また、皐月賞こそ最内枠や多頭数を前後の利と実力差で覆しての勝利でしたが、日本ダービーセントライト記念菊花賞ではそれぞれ、キレ不足末脚に偏った競馬中長距離でのスパート余力不足などを露呈しました。歴戦の古馬相手に総合力で抜けた存在ではないことも考えると、苦しい競馬になりそうです。

 

■スルーセブンシーズ

失速耐性持続力優位の末脚を武器にした急坂巧者

ステイゴールド系の5歳秋はまさに充実期。米国色の強い母にドリームジャーニーを迎えた血統。米国色の強さは有馬記念でマイナス方面に作用しそうですが、スルーセブンシーズは宝塚記念を上がり最速で2着、凱旋門賞0.4秒差4着と米国色を否定するような能力を示しています。また母マイティ―スルーの仔は中山芝ダで【13.2.4.10】という成績。スルーセブンシーズ自身は中山芝で【4.1.2.0】。母から受け継ぐ失速耐性や持続力優位の能力を、父が小柄(≒芝指向のスピード)・器用さ・成長力を加えて生み出されたのがスルーセブンシーズだとイメージできます。

ここまでマイル指向の能力は薄く、例年マイル指向の適性が問われやすい中山牝馬Sも緩急の大きいかつ終盤早い展開を押し上げることで運が勝利方向に振れました。このことからも2000m基準で距離延長指向に適性があると判断できます。

宝塚記念では直線進路を切り替える時間的ロス。外々を回したイクイノックスも距離的ロスは受けているので判断には少々注意が必要ですが、もうちょっと迫れていたと考えてよさそうです。それを可能にするのもピッチ走法からくる器用さです。多くの有力馬が適性とはややズレながらも打点の高さだけで着順を上げてこようとする今回、スリーセブンシーズは失速耐性と持続力優位の末脚という武器を器用さで活かしきれる数少ない存在です。

 

■タスティエーラ

スタミナを主体とした先行力と持続力が武器。消耗戦に強い自力勝負型

クラフティワイフ系にマンハッタンカフェ(菊花賞有馬記念天皇賞春)・サトノクラウン(宝塚記念香港ヴァーズ)を重ねた血統で、父・母母父・母母母父がNorthern Dancer系。血統全体のイメージはスタミナ・失速耐性・持続力・成長力が浮かび上がります。

このイメージ通りだったのは皐月賞。タスティエーラは、前半59.6秒で折り返したにも関わらず後半でも61.2秒で駆け抜けるといった「失速耐性と末脚の持続力」の優秀さを魅せています。前半58.5~59.3秒で逃げ先行したグラニット・タッチウッド・ベラジオオペラが後半は63.1~64.4秒と失速していることを考えるとタスティエーラの優秀さが実感できます。

転じて、末脚のトップスピードや急加速力が要求されやすく、馬力やパワーが邪魔となり血統的にも好走例が少ないような日本ダービー菊花賞ではパフォーマンスを下げるはずでした。しかしながら、日本ダービー馬となり、菊花賞もメンバー中上がり2位で2着。適性とズレながらも世代屈指のパフォーマンスを発揮していることは総合力の高さであると額面通りに受け取ることができます。

春は共同通信杯で賞金加算できず弥生賞参戦という強硬ローテから、皐月賞のタフ競馬を経由して日本ダービー優勝。今回は休養明けから菊花賞を経由して有馬記念へフレッシュな状態で臨戦。古馬初対戦は未知数ですが、総合力の高さは勝るとも劣らず。そこに適性の合致や斤量の利、フレッシュさやムーア騎手といった武器が見込めます。