【皐月賞2023】

■傾向と対策

22年(良) 35.2‐49.6(37.3-37.4)-34.9 1:59.7

21年(稍) 36.3-47.3(35.4-35.4)-37.0 2:00.6

20年(稍) 35.6-49.3(37.1-37.5)-35.8 2:00.7

19年(良) 34.8-48.6(36.4-36.8)-34.7 1:58.1

18年(稍) 35.5-48.0(35.6-36.5)-37.3 2:00.8

17年(良) 35.1-48.2(36.3-36.5)-34.5 1:57.8

16年(良) 34.2-48.1(35.7-36.4)-35.6 1:57.9

15年(良) 35.2-48.3(36.2-36.5)-34.7 1:58.2

上記は路盤改修後の皐月賞レースLAP。良馬場では高速決着が定番。終盤の早さだけで高速決着に押し上げたわけではない≒巡航速度の優位性が求められていることが分かります。巡航速度の優位性は距離短縮指向の能力である程度は推し測ることができます。良馬場での好走馬にはコディーノロゴタイプイスラボニータペルシアンナイト・アルアインがいるように、マイルGⅠで活躍する能力が優位に働くということを示しています。道悪馬場では特殊なレース展開ばかりですが、馬場状態に関わらず持続力優位の能力が活きやすいレースであることは明らかです。

 

22年(18頭) 1着:[06-03] 2着:[04-03] 3着:[16-14]

21年(16頭) 1着:[04-04] 2着:[01-01] 3着:[10-08]

20年(18頭) 1着:[12-07] 2着:[06-04] 3着:[10-09]

19年(18頭) 1着:[07-07] 2着:[04-04] 3着:[04-05]

18年(16頭) 1着:[04-04] 2着:[05-05] 3着:[02-02]

17年(18頭) 1着:[05-05] 2着:[05-05] 3着:[05-03] 

16年(18頭) 1着:[12-10] 2着:[15-13] 3着:[09-05] 

15年(15頭) 1着:[11-07] 2着:[05-03] 3着:[02-02]

上記は1~3着馬の位置取りを[3角-4角]の順で示したもの。路盤改修後の皐月賞好走馬で4角5番手以内だったのは16で占有率は66.6%。一方で4角10番手以下から好走したのは16年の1,2着馬。前後半58.4-59.5のハイペースに加えて直線強烈な追い風(向こう上面向かい風)だったことから前後の利が大きかったレースだったと記憶しています。このことから先行力のある馬(≒持続力寄りの能力バランス)はレース運びにおいて優位であるということを察することができます。直線の短さだけが先行力を優位にしているのではなく、序盤のポジショニング争いにおいても必要な能力であることが要因だと考えます。さらに細かく見ていくと4番人気以下で好走したのは12頭。うち9頭が4角5番手以内からの好走でした。例外の2頭は16年1着ディーマジェスティ・20年3着ガロアクリーク・21年3着ステラヴェローチェの3頭。「激走の資格は先行力にあり」と考えてよいでしょう。

 


・距離短縮指向のスピード(良馬場)

・先行力を主体とした立ち回りの巧さ

・持続力優位の能力バランス

 

■各馬分析

・フリームファクシ

23.7-25.1-24.5-23.4-23.0 1:59.7 きさらぎ賞

きさらぎ賞は前半緩い流れから後半はゴールまで加速気味のミドルスパート勝負。時計は優秀の部類で甘め評価で3勝クラス善戦レベル。通念的に3勝レベルでクラシック勝ち負けということから考えると能力的には打点が届いていると判断できるのでは。

祖母Soninke(英)からは日本ダービー馬・ロジユニヴァース秋華賞馬・ディアドラ、安田記念馬・ソングラインなど日本活躍馬が多数輩出されています。ダートでの活躍馬もおり、血統の全体的な特徴は欧州指向(スピード指向)を活かしたタフな競馬でパフォーマンスをあげているということでしょうか。フリームファクシはディアドラの半弟ですが、気性の雰囲気は叔父ノットアローンに似ています。ノットアローン菊花賞で暴走してしまいましたが、この馬も序盤での折り合いに苦心している姿がみられます。新馬戦で逃げてしまったがゆえの苦労かもしれません。立ち回りの巧さは気性面へいかにアプローチするかがカギとなりそうです。

将来的な完成像は「全体的なスピードを武器に失速耐性を主体とした末脚の総合力でまとめる競馬」となりそうです。良馬場で末脚のキレの要求度が高いレースは苦手そうで、血統的に考えても今後の成長は鈍そう。一方でタフな皐月賞となれば序盤の追走力優位性や失速耐性が優秀そうな末脚から能力の方向性は合致してきます。

 

・ソールオリエンス

24.5-25.1-25.0-24.4-23.2 2:02.2 京成杯

中盤過ぎまで緩い流れからのスパート勝負。走破時計的には評価なし。

勝利したソールオリエンスが4角膨らんだのは逆手前の影響。この影響から再度立ち上げてグンとアクセルを踏んだところがゴール。上がり特化型のレースで終盤にミスがありながら上がり最速で突き抜けた点は評価する点です。荒々しい競馬にも関わらず完勝したことから時計レベルの低さやメンバーレベルで評価するのは慎重にすべきでは。

血統的にはキタサンブラック×Motivator×クエストフォーフェイムでスタミナ指向。路盤改修以降の皐月賞は高速化が進み、スタミナ指向の馬は苦戦傾向にあります。半兄ヴァンドギャルドや欧州指向が強い構成からも成長曲線は秋以降に上昇しそう。ソールオリエンスの2連勝はともに追走力の要求度が低くかつ少頭数でした。良馬場の皐月賞では距離短縮指向のスピード不足や追走経験不足、さらには多頭数替わりで立ち回りへの不安も払拭できていません。潜在能力の高さは評価しつつ人気に見合った勝率は疑ってかかりたいと考えます。

 

・ベラジオオペラ

35.4-24.0-24.7-24.8 1:48.9 スプリングS

35.9-25.4-24.1-22.6 1:48.0 セントポーリア賞

36.9-25.1-24.0-22.0 1:48.0 新馬

デビュー戦、セントポーリア賞と前半が緩く上がり特化型のレースを2連勝。つづくスプリングSは戦前から追走力の忙しさによりパフォーマンスが伸び悩むのではという懸念がありましたが、その懸念を払拭する走りをしました。序盤が早く、中盤も引き締まり終いバテというレースLAP。序盤はダッシュを効かせポジションを取り、中団追走でもこれまでよりだいぶ追走力を引き上げながら、終盤では上がり最速で突き抜けました。

評価したいのは「ハイペース追走」「余力減少での末脚発揮」という2点。基本的に若駒というのは初めての経験、特に苦しい経験に出くわすとパフォーマンスが伸び悩むケースが多くあります。大概の馬がそういった苦い経験をもとに成長していく傾向にあります。しかし、ベラジオオペラは重賞という舞台でこの初体験を受けながらパフォーマンスを上げてきました。負かしたホウオウビスケッツやメタルスピードも決して弱い馬ではありません。

血統的に米国色の弱まりが追走力不足に懸念を向けられそうですが、スプリングSでの走りから距離短縮でのハイペースに対応できたことからレース内容で血統的傾向を否定できます。むしろ、末脚を引き出す競馬で結果を出した対応力&順応性を評価しておきたいです。父ロードカナロアは母系の特徴を引き出すのが得意な種牡馬。母系はアイドリームドアドリームからつづくエア冠名の名馬がズラリと勢ぞろいする血統。祖母の全兄エアシェイディや全姉エアメサイアらはマイル指向のスピードを持ちつつ小回りG1で好走実績を持ちます。そこにハービンジャー×ロードカナロアと重ねられたベラジオオペラ。「小回り&高速馬場での中距離戦」が主戦場になってくる血統的イメージは高速馬場の皐月賞に合致してきます。重馬場で好走後の中3週で本番。当日の馬場と自身の状態が好走のカギとなりそうです。

 

・ファントムシーフ

35.3-25.2-23.7-22.8 1:47.0 共同通信杯

23.5-25.3-25.2-23.8-22.4 2:00.2 野路菊S

欧州色の強い血統かつ日本的主流血統を持ちません。それにもかかわらず新馬戦では阪神1600で末脚がキレ、つづく野路菊Sでも上がり特化型の着差がつきにくいレースを抜け出しました(キックバックを受ける教育的競馬のオマケつき)。共同通信杯は無理せず前目につけつつ末脚を引き出したルメール騎手の好騎乗が光りました。序盤早く、中盤緩く、終盤はミドルスパート気味で、全体としては緩急の大きいかつ末脚のトップスピードの要求度が大きいレースでした。

ハービンジャー×母父Medagriad'OroでDansili同血2×2のクロス持ち。さらにはNorthernDancer5×5×5×5という血統。コテコテになりそうな質感ですが、ここまでの走りからトップスピードは問題ない水準にあります。さすがに急加速力では日本主流血統を主張する馬たちには劣りますので、緩急の少ない競馬や斤量やコース形態の負荷が大きい状況で武器となる持続力を主体とした総合力の高さを活かしたいところです。

 

・タスティエーラ

23.5-25.0-24.8-23.7-23.4 2:00.4 弥生賞

緩い流れからロングスパート勝負となった弥生賞共同通信杯では主流血統を持つ馬たち相手にキレ負けしたタスティエーラが巻き返しての勝利。サトノクラウン×マンハッタンカフェという血統構成からも、持続力を活かした競馬が得意な能力バランス。弥生賞のレースぶりで4角から追い通しだったようにギアチェンジ性能(≒急加速力)に課題が残ります。これは血統的にも成長余力が多くないようで、特徴として捉えていくしかなさそうです。

良馬場での皐月賞は詰めがあまくなる可能性が高く、相対的にタフな質感となればなるほど好走率は上昇するのでは。グラニットが逃げるようだとキレの要求度が低下することからレース展開は向くのでは。共同通信杯で賞金加算ならず押せ押せで弥生賞を使ってきたことから余力がどれほどあるかは注意しておきたいところ。

 

・トップナイフ

米国血統が主張した追走力や全体的スピードが武器。血統的に考えても末脚のキレで勝負に持ち込むのは至難の業といった能力バランス。未勝利勝ちが一貫ラップ+ややバテを突き放す強い競馬。その後、横山典弘騎手はあえて末脚を引き出すような競馬を行いました。勝負となったホープフルSでは本来の能力を全開に引き出す競馬。

まさに「育てている」という状況。

弥生賞。レース全体としては緩い流れからのロングスパート勝負。発馬を決め、ハナを奪い主導権を握ろうと思えばできたテンであえて控える素振り。中盤の緩さからか行きたがる感じをなだめて追走。終盤も前が空かないこともありますが、馬ごみが得意ではないという気性を知りながら追い出しを待って待ってインを突く競馬。「勝ち」よりも求めたものがあったレースだったという印象を非常に強く感じます。

華やかな血統でもなく、本番直行というローテが珍しくない時代にあるなかで前哨戦をしっかり使う意思のある調教師、凡走があればすぐに人気が下がるであろうキャラ。そして、主流血統に劣るであろう末脚力をなんとか鍛えて少しでも弱点を補完しようとする、ここまでのストーリーは非常に好感が持てます。トップナイフ陣営としては少しでもタフな皐月賞となることを願うばかりでしょう。