【有馬記念2022】

▼傾向と対策 ※路盤改修後の2014年からを対象

21年 41.3-37.0-24.6-24.6-24.5 2:32.0

20年 43.3-38.2-24.6-24.4-24.5 2:35.0

19年 40.8-36.0-23.8-25.7-24.2 2:30.5

18年 42.1-37..6-23.8-23.6-25.1 2:32.2

17年 42.5-38.8-25.0-23.8-23.5 2:33.6

16年 42.0-38.3-24.7-23.8-23.8 2:32.6

15年 43.4‐38.1‐24.6‐23.4‐23.5 2:33.0

14年 43.7-39.3-25.3-23.9-23.1 3:35.3

①基本的には上位人気での決着も8回中5回で人気薄1頭が激走

②ミドルスパート勝負は普遍的でも道中のペース次第でタフさが変化

③3歳馬&牝馬は斤量差で能力補完しやすい

④小回り適性≒中距離重賞先行好走で評価

⑤リピーターや非根幹距離巧者に注意必要

 

▼タイトルホルダー

44.1-39.5-25.1-23.7-23.0 2:35.4 日経賞

序盤~中盤まで緩く、そこから加速し続けるようなミドルスパート勝負。

36.5-35.9-38.3-37.2-23.4-24.9 3:16.2 天皇賞(春)

中盤緩み気味のミドルスパート勝負。全体としては序盤が早かったことからエネルギー効率の悪いラップ推移。余力が多く削られているなかでのミドルスパートは道悪馬場での長距離戦ということも併せて考えるとスタミナの優劣が顕著に結果へ現れた模様。

33.9-23.7-24.0-23.7-24.4 2:09.7 宝塚記念

緩急の少ない持続ラップ。全体としては序盤やや早く、中盤引き締まり、終盤やや掛かるという具合。ハイラップを刻み続けレコードをマークしたことは中距離指向のスピードが問われていたことを意味します。

古馬となった春3戦で魅せた能力は「レース支配可能な先行力」「無尽蔵のスタミナ」「中距離指向のスピード」と有馬記念において非の打ちどころのないものとなっています。欧州色の強い母系にドゥラメンテ(≒日本主流血統を凝縮)を迎えた血統。数々の経験を糧とすることで人馬ともに成長してきている印象です。

天皇賞春ではディープボンドやテーオーロイヤルからの圧力を軽々と跳ね返した無尽蔵のスタミナだけでなく、宝塚記念ではパンサラッサのハイラップを追いかけられるだけの中距離指向のスピードも併せ持つことを示しました。サンデーサイレンスの血が奥まるにつれて持続力の優位性が上昇している今日の日本競馬において、レースを支配できる先行力はアドバンテージとなりつつあります。キレの後退は後方から差を詰めるだけの急加速力やトップスピードの減退を意味します。逃げ馬不在の今回、ただでさえ支配的先行力を持つタイトルホルダーは「前後の利」すらも手にすることとなります。

 

▼イクイノックス

23.6-23.8-25.1-24.3-22.9 1:59.7 皐月賞

全体的には急→緩→急というラップバランス。中盤以降はゴールまで加速し続けるロングスパート勝負。

35.1-35.5-24.3-23.3-23.7 2:21.9 日本ダービー

日本ダービーとしては早いペース。追走力と失速耐性に秀でる馬が末脚を伸ばしやすかった印象。

キレ・持続力を兼備した末脚が武器。欧州色を主張する母系にステイヤー気質のキタサンブラックを迎えた血統からはタフな質感に適性がありそうですが、ここまでの戦歴からは末脚のトップスピードを活かした走りに適性があるというギャップが存在します。

皐月賞では序盤にポジションを取ったぶん、日本ダービーではやや勝負仕掛けしたぶんによりそれぞれ末脚が鈍っている様子があります。これはあくまで高いレベルでの話ですので総合的にみればキレ・持続力ともに兼備していると言っていいはずです。

皐月賞日本ダービーも大外枠だったことから「自ら動かざるを得ない」ということが競馬の選択肢としてあったことが末脚を鈍らせた要因だと考えます。一転、脚を存分に溜めた天皇賞秋ではこれまでで一番の伸び脚を魅せました。溜めれば伸びる、余力があればチカラいっぱい走ることができるのはどの馬も一緒です。焦点はその「程度」です。イクイノックスが天皇賞で魅せた末脚は32.7秒(推定:11.0‐10.6‐11.1)は至高の領域そのものです。これにより血統と能力のギャップを受け入れるに至りました。

道中無駄な動きをせずに溜めたエネルギーを終盤に爆発させるという走りを表現するのは、東京コース>中山コースであることは言うまでもありません。

 

▼ジェラルディーナ

持続力と馬力に秀でる超良血馬。桜花賞時では428kgだった馬体重が前走470kgまで増加したように顕著な成長力を示しています。持続力や馬力を武器とするためには筋肉量が下支えする必要があり、馬体重増は本来の能力を発揮する条件が揃ったことを意味します。ここまで全5勝は非根幹距離でのもの≒根幹距離が未勝利なのはキレ不足が要因。母ジェンティルドンナが有終の美を飾った2014年有馬記念は非常に緩い流れから前後内外の利を得てのものでしたが、その母よりも有馬記念への適正は見出せそうです。

ただし、近3走から期待値という意味では魅力的ではありません。小倉記念では勝負所で動けず先行から抜け出した馬に離された3着。内枠決着となったオールカマーは馬番2番から内で溜めて抜け出し勝利。外枠決着となったエリザベス女王杯は大外枠から絶妙な進路選びで勝利。他力本願とまでは言いませんが、近2走は「勝利の風」が吹いていたことは間違いありません。そしてメンバーレベルの違いから小倉記念のように踏み遅れた場合は掲示板も怪しい可能性が出てきます。母ゆずりの「運の良さ」を理由に信頼するには実力とオッズのバランスが見合っていないと判断します。

 

▼エフフォーリア

持続力優位の末脚を武器に成長につれてスタミナ色が主張してきている印象です。ここまで最大パフォーマンスは「緩い流れからミドルスパート勝負」の走りができたとき(天皇賞秋:24.3-23.9-24.3-22.9-22.5)です。大阪杯宝塚記念は追走力不足から余力を削がれて末脚を発揮できず良いところがひとつもありませんでした。3歳時には斤量差やスタミナ色が主張しすぎていないことからある程度の追走力も補完できましたが、成長した今、好走するペース幅が少ない状況になっています。能力的な成長力に疑問が残る点、好走ゾーンがかなり狭まっている点から厳しい評価を。

 

▼ヴェラアズール

36.3-37.0-24.5-23.1-22.8 2:23.7 ジャパンC

欧州指向の末脚と馬力が武器の中長距離馬。父エイシンフラッシュのドイツ色が主張している能力バランス。ジャパンC当日は欧州血統が利きやすいレース傾向になっており、ムーア騎手の超絶技巧もあっての勝利≒再現性は低い。序盤をゆったりと走ることで末脚の余力を担保しているようで、大回り+長い直線&緩いペース+欧州指向の末脚が利く馬場だったジャパンCは条件としてもこのうえないものでした。コーナー6回の有馬記念ではジャパンCとは逆方向の能力が要求され、そのためジャパンC有馬記念の連勝はディープインパクトまで遡らなければなりません。距離適性や持続力優位の末脚は魅力的ですが、小回り適性不足は無視できない要素となりそうです。

 

▼ディープボンド

先行力と持続力を武器とする中長距離馬。宝塚記念での敗戦は中距離戦でのレコード決着に対応しきれなかっただけで、それでも3着とはハナ差の4着。21年有馬記念では内々を追走し直線しぶとく伸びて2着。道中でギアをあげて好走するタイプではありませんが、先行勢が手薄かつ枠順次第ではリピーターとして今年も激走しておかしくありません。

 

▼ボルドグフーシュ

持続力優位の中長距離馬。大味な競馬に強みがあるようで直線の長いコースや距離延長でパフォーマンスを上昇。前走の菊花賞こそ馬群をうまく捌いて進出を果たしましたが、同世代の長距離戦だったことが影響している印象です。距離短縮かつ小回り適性要求、さらにはメンバー強化の相手を捌いて進出となると難しい条件が重なりそうです。狙うはアドマイヤモナーク的な漁夫の利作戦しかないのでは。

 

ジャスティンパレス

米国型の追走力を主体としたバランスの良い中距離馬。ほぼ一貫ラップのホープフルSを5番手追走から2着、高速ロングスパートの神戸新聞杯を3角4番手から2位の上がりで抜け出し1着。小柄な馬体から斤量減は条件好転で、米国型の追走力が利く小回りコースも条件は良し。ディープインパクト産駒の有馬記念好走馬はジェンティルドンナサトノダイヤモンド・ワールドプレミアといずれもG1馬なのは気になりますが、激走候補になりうる存在では。

 

■結論

本命は、タイトルホルダー。

先行力・持久力ともに秀逸。サンデーサイレンスの血が世代を重ねることで日本競馬主流血統の転換期を迎えている現在で、天皇賞(春)でスタミナ自慢を捻じ伏せ、宝塚記念で中距離スピード能力も顕示したように、肉を切らせて骨を断つ戦法は今後の指針を示しているといっていいはずです。人馬ともにペースを乱す存在が希薄なことから前後の利が得られ、栗東所属馬が交通障害の影響から輸送にスムーズさを欠くなど状況としても年度代表馬への道が整ったのでは。

対抗はジェラルディーナ。分析時点では「運の良さを理由に信頼するには実力とオッズが見合っていないのでは」と評しましたが、有力馬で最内枠&モーリス産駒の成長力を軸に「宝塚記念からの逆説的仮説」から評価を上げることとしました。宝塚記念からの逆説的仮説とは、有馬記念宝塚記念の相関性が高いことから来年の宝塚記念で好走する可能性がある馬を先取りでリンクするであろうここ有馬記念で青田買いするといった理論です。七冠牝馬の母と同様に内枠を引いた運の強さに加え、その母よりもややパワー型に出ている能力バランス、馬体重増加からも顕著な成長力と本格化の気配、非根幹距離での強さから当初の予定よりも大幅に評価を上げて送り出したいと思います。

 

激走候補はジャスティンパレス。春とは別馬に成長しています。追走力を活かしつつロングスパート性能を発揮する競馬が合っているようです。小柄な馬体から斤量減は好印象。東京コースでは剛腕で末脚を伸ばしてバシバシ好走させるマーカンド騎手ですが、中山ではその剛腕を失速耐性補助に変えて先行馬を粘らせる競馬が合っている模様。ハイペーで流れた菊花賞を先行しながら勝負所詰まっても3着へ好走したタフさも評価。前後内外の利を得られるような競馬を期待します。