【皐月賞2024~人気想定馬の評価~】

■ジャンタルマンタル

23.4-22.7-24.2-23.5 1:33.8 朝日杯FS

路盤改修以降の皐月賞では時計の高速化が進み、マイル指向の先行力や追走力の要求度が上昇。端的にマイル重賞でのレース経験や好走経験が皐月賞でのアドバンテージとなります。

マイルG1としては緩急の大きなラップ推移だったとはいえ、朝日杯FS優勝のジャンタルマンタルは優秀なマイルスピードを持っています。米国血統優位のジャンタルマンタルにとって朝日杯のような緩急の激しいレース≒日本主流血統向きのキレが優位性を持つようなレースは本来不得手とするはずです。騎手の手綱さばきで無効化できた部分があるものの、マイル指向の総合力の高さを魅せました。極端な後傾ラップとなった共同通信杯で尖った能力を発揮できなかったことからも、マイル指向の総合力の高さが証明できていると考えられます。

皐月賞の好走条件となるマイル指向の追走力・非主流血統の優位性を持ち合わせ、打点もマイルG1級となればあまり弱点がなさそうに見えますが、人気馬なので凡走の可能性を探ります。

ここでの懸念は、成長曲線の逆転と距離延長適性です。濃厚な米国血統がゆえに完成度の高さで2歳G1を勝利したと仮定するならば、日本・欧州血統を持つ馬が成長力で能力を詰めていること・または逆転していることを考えなければなりません。また、路盤改修以降の皐月賞で好走した父:米国血統は父ドレフォンのジオグリフのみ。ジオグリフの牝系には小回り重賞で滅法強いアンデスレディーがいました。距離延長適性ではマイル指向の総合力の高さがそれを反証していると考えられます。

基本的に「全方位的に強い馬」というのは存在しません。急加速力に特化しているならば、持続力では劣る性質を持つように、能力の先鋭化はトレードオフの一面を必ず持ちます。全方位的に強いような成績を残してきた馬たちは、打点の高さによって劣る部分をカバーしてきた可能性が高いということです。G1馬であるジャンタルマンタルはその打点を認めつつも、共同通信杯で中距離指向の末脚を補いきれず敗戦しています。さらに200m延長の皐月賞で中距離指向の末脚や失速耐性の要求度が高まる条件では2歳時に魅せたパフォーマンスを発揮しきるのは難しいのではと考えます。

 

■シンエンペラー

35.0-36.9-23.9-24.0 1:59.8 京都2歳S

前後半59.1-60.7という前傾レースかつロングスパートが誘発された京都2歳S。良馬場京都2000m≒内前有利とこのレース質感があいまってゴール前は大混戦。スパート余力で優位性を持った後方待機勢が上位に台頭。凱旋門賞馬(Sottsass)を全兄に持つ欧州血統の強みを生かしたシンエンペラーが最後に抜け出し勝利。

欧州指向の持続力と失速耐性に良さがありそうなレースぶりで、ホープフルS弥生賞では先行力も示しました。皐月賞でも適性や立ち回りに問題はなさそうですが、人気馬なので凡走の可能性を探ります。

ここでの懸念は全体的なスピード不足と成長曲線の未熟性。マイル指向のスピードを感じさせたレースはなく、血統全体も欧州色優位。古馬1勝クラス相当の京都2歳から、古馬2勝クラス相当のホープフルS古馬2勝クラス超相当の弥生賞とレースレベルが徐々に上がっています。着差が少しづつ離されているように成長曲線がまだ上がり切っていない可能性も示唆されています。スタミナや失速耐性に優位性を持つ能力を良馬場の皐月賞では活かしきれない可能性に注意したいです。

 

ビザンチンドリーム

35.6-24.6-24.2-22.4 1:46.8 きさらぎ賞

重めの芝で上がり特化型のレースが展開されたのがきさらぎ賞

新馬戦同様にあり得ない位置からぶっ飛んできたのがビザンチンドリーム。豪快な末脚は非常に魅力的ですが中距離指向的であるともいえます。これはマイル指向のスピード性能とは逆の適性を示しており、かつ早いペースを追走できる能力も示していません(血統的な補完も期待薄)。小柄な馬体と中距離指向の末脚特化型タイプという状況から全体的なスピードが問われる条件は不得手なはずで、皐月賞では前後内外でかなりの恩恵がないと浮上できないのでは。

 

ジャスティンミラノ

37.3-25.4-23.6-21.7 1:48.0 共同通信杯

超スローから上がり4F勝負。ポジションを取っても折り合って(エコロヴァルツ・ジャンタルマンタルは激しく折り合い欠く)、やや早めのスパートにも応えて2歳王者をちぎったのがジャスティンミラノ。

ジャスティンミラノは瞬発力勝負を2連勝していますが、末脚特化型ではなくむしろその逆。ワンペース指向の先行力を主体に戦うタイプに思えます。そのうえでこれだけの瞬発力を持っていることは今後のレースにおける高品質なオプションであるともいえます。

母は欧州短距離G1馬ですが自身の追走力は未知数。雄大な馬格とフットワークが魅力的で小回り替わりがダメとは言い切れませんが、東京→中山内回りが条件好転とは思えません。そして最大の懸念である初のペースに戸惑う可能性も捨てきれません。未知数が多いなかで人気している状況といえます。

 

■レガレイラ

35.4-36.8-24.5-23.5 2:00.2 ホープフルS

多くの馬がスタミナ切れを引き起こしていたレース。結果的に先行策から上位に来た2頭は凱旋門賞馬の全弟シンエンペラー(欧州血統)とダートで失速耐性を鍛えられていたサンライズジパング。2歳馬たちには苦しいレースを後方待機で構えたルメール騎手の危機察知能力からくる挙動はお見事。それに答えたレガレイラの末脚もお見事です。

能力の方向性としては反応の良い≒急加速力に優れる総合力の高い末脚が武器となりそうです。一方で先行力や追走力の成長に乏しそうな血統構成(父スワーヴリチャードの米国色を薄める&末脚を引き出す傾向にある母系)です。

ホープフルSではガス欠するライバルを尻目に浮上することができましたが、レース経験を重ね鍛えられた牡馬が集う&レース序盤から中盤における追走力の要求度が高くなる皐月賞では十分なパフォーマンスを発揮できそうにありません。ここでレース前半の忙しさを経験して向かうオークスで能力全開が叶いやすいのでは。

 

■メイショウタバル

36.3-25.2-22.5-22.9 1:46.9 つばき賞

前後半4Fが48.8ー45.4という後傾ラップ。かつ後半は22.5ー22.9を刻むスピード・瞬発力・持続力の末脚総合力が要求される高速ロングスパート戦。全体時計は古馬3勝クラス相当という秀逸さ。これをハナ奪い、道中他馬に絡まれながらも4角先頭から地力で叩き出したのがメイショウタバル。

ちなみに京都芝1800mの古馬3勝(1600万)クラスはあまり施行回数がなくざっと遡っても30数レースしかありません。しかしながら京都芝1800mの古馬3勝クラスを勝ち上がった馬のその後はなかなかに優秀なものがあります。古くはスズカフェニックスがその後高松宮記念を優勝、近年だとレイパパレ大阪杯を優勝しています。ほかにもアクシオン鳴尾記念中山金杯を連勝し札幌記念を2年連続好走、ミッキードリーム朝日CC優勝、アルキメデス朝日CC優勝、デスペラードステイヤーズ2着から翌年以降2年連続優勝、エスポワールランドネが重賞連続好走、メイショウカンパク(メイショウタバルの伯父)・ディメンシオンが重賞を人気薄で激走しています。

3歳2月に隠れた出世条件である「古馬3勝クラス・京都芝1800m」に匹敵するタイムを叩き出しているメイショウタバルの能力はかなりのものを秘めている可能性を示しています。

 

35.2-24.4-23.6-22.8 1:46.0 毎日杯

レース全体としては序盤息を入れてからは加速ラップ的なミドルスパート勝負。重馬場の巧拙が大きく影響したということを前提としても、メイショウタバルが叩き出したタイムに疑いの必余がなく秀逸なものです。馬場差などを考慮しても近10年で最高数値を叩き出しており、これはシャフリヤールやブラストワンピース、アルアインを凌ぐものです。

なお、スプリングS毎日杯皐月賞までの間隔が短く本番では消耗具合が結果に影響を及ぼします。古くはスマイルジャックスプリングSで激走後、皐月賞を凡走し日本ダービー激走。最近ではベラジオオペラがスプリングS快勝も皐月賞惨敗(展開不利)で日本ダービー4着と巻き返しています。路盤改修以降のスプリングSおよび毎日杯から皐月賞を好走した馬(ガロアクリーク、エポカドーロ、アルアインリアルスティールキタサンブラック)の共通点は雄大な馬格にあります。メイショウタバルは前走馬体重が500kgとこれに該当。当日の馬体重には注意しつつも現状はタフなローテーションを理由に評価を下げる必要はなさそうです。

メイショウタバルはゴールドシップ産駒らしいスタミナの豊富さ勝負根性を受け継ぎつつも、父産駒らしからぬレース序盤での前向きさを持ちます。父ゴールドシップは捲って3角番手という「実質先行馬」のような競馬を展開して無尽蔵のスタミナで他馬をなぎ倒してきました。実際ライバル馬の騎手は「ゴールドシップに先行されたらもうお手上げ」とコメントすることもありました。前進気勢の高さから父があまり表現できなかった競馬をできるのがメイショウタバルの良さとなっていくでしょう。

サンデーサイレンスの3×4はありますが血統全体では米国色を主張するため、長い直線や中距離指向の伸びのある末脚勝負では適性がズレます。先行力・スタミナ・勝負根性という武器を活かしきるのはダービーではなく皐月賞。基本的に逃げ馬は人気で買うキャラではありません(≒人気薄で騎手の意識が薄れる状況が買い時)が、これだけの条件が揃っており交わされて番手からでも折り合いがつくことからも期待は高まります。「守さん、うまく仕上げてください」と願わずにはいられません。