【皐月賞2023 回顧】

■回顧

まずは馬場状態を確認しておきます。今回は降雨と排水力の戦いがあり、これを時系列でみていくことで馬場状態を把握していきます。まず、中山8R・野島崎特別はそれまでの馬場状態とクラス水準から2:01.3程度の決着を見込みました。

 

23.3‐23.8‐24.4‐25.1‐24.0 2:00.6 野島崎特別

結果は想定を悠々上回るかたちとなり、路盤改修後の排水力を見せつけられました。いわゆる「重馬場」から想定されるタイムではなく、JRA発表の概念で考えてはいけない馬場となっていました。中山8Rまでは。その後、ふたたび降雨に見舞われた中山競馬場。そして迎えた中山10R・春雷S。

33.6 ‐ 35.2 1:08.8 春雷S(OP)

33.5 ‐ 34.6 1:08.1 船橋S(3C)

前週行われた3勝クラスの船橋Sと比較します。春雷Sは前半で0.1秒余力を持って折り返していながら、後半は0.6秒突き放される内容。完全に劣っていますが、これは馬場状態の悪化が招いたもので間違いありません。中山8Rでは良馬場でのクラス水準に近いタイムを出せる馬場状態にありながら、約1時間後の中山10Rでは排水力が間に合っていないことがうかがえます。ここで肝となるのが1200mでこのタイム差ということ。短距離戦ですらクラスを超越して逆転するほど馬場の影響があったということ。となると、2000mとなる皐月賞でタイム低下に関してどれほどの馬場の影響があったかは説明不要でしょう。

 

▼皐月賞/結果 レース後談

23.2-23.5-24.2-25.2-24.5 / 2:00.6

ソールオリエンスの末脚炸裂が象徴的だった皐月賞。前半58.5秒というペースを生み出したのはグラニットとそれを結果的につつくかたちとなったタッチウッドの存在。タッチウッドは先頭を走りたがる気配があり、先頭にさえ立てばゆっくりと走るのは共同通信杯で確認済みです。しかしグラニットの先行力には敵わず、さらに後ろから馬が来ると反応する&騎手が交わさせない意思も持っていました。この2頭の特性と関係性がペースアップを助長させました。

勝ち時計は2:00.6。これはエフフォーリアの勝った2021年皐月賞と同タイム。ここに先述の馬場状態(短距離戦でクラスを超越してタイム逆転する状況)を加味して考えると、ソールオリエンスの叩き出した時計は優秀なものだったと考えられます。ちなみに近年で最も時計が掛かる馬場だったのはコントレイルの勝った2020年でタイムは2:00.7でした。

 

―――ソールオリエンスはホンモノか?

結論から言うと、ホンモノです。非凡な実力に展開が加わったことでその「鮮やかさ」はより鮮明となりましたが、展開だけでここまで浮上し勝ち切ることはできません。予想当初、第一印象でソールオリエンスは軽視していました。京成杯の低レベルさ、コーナー立ち上がりでの不器用さなどからまだ完成度が低いのではと。しかし、さらに分析していくとその印象と実態に乖離があることに気づいていきました。レース自体は低レベルでも終盤特化型のレースを、その終盤でミスしておきながら最後の200mだけでひっくり返してしまうだけの脚力。これは認めなければならない能力なのではと思うようになり、改心し評価を記述しました。

2016 [14‐14‐12ー10] ディーマジェスティ

2012 [18‐18‐17‐06] ゴールドシップ

2005 [15‐16‐09‐09] ディープインパクト

2000 [15‐15‐15ー08] エアシャカール

1998 [14-14-11-08] テイエムオペラオー

1993 [18‐17‐15ー12] ナリタタイシン

上記は追い込み優勝の皐月賞馬。ダービーでの成績は[1.1.3.1]です。

ソールオリエンスの母系は欧州色が濃い血統で、凱旋門賞馬(Sadler's Wells・MontjeuRainbow Quest)を複数内包しています。ここにキタサンブラックを迎えたことでダービーでは高いレベルでの急加速力不足が懸念材料となりそうです。サンデーの代重ねが進んだことから血統の転換期を迎えている日本競馬界では、全体的にキレの鈍化が見られそうなので杞憂に終わる可能性はありますが、東京2400mでペースの落ち着きかつ緩急の大きさは今回の皐月賞と真逆の質感となります。つまりは、真逆の質感でパフォーマンスを上げてくるであろう馬がいる場合、ライバルはその馬となります。

横山武史騎手はエフフォーリアで挑んだダービー制覇がここで活きてくる可能性もあります。一気にアクセルを踏んだがゆえに最後の最後で末脚が鈍ったところを狙われて悔しすぎる惜敗となったのが2021年日本ダービー。その経験を活かすとすれば、ソールオリエンスのダービー制覇も見えてきます。元来、ガツンと仕掛けるのが持ち味の横山武史騎手ですので、どのあたりまでその経験を活かす気でいるのか、これからの言動に要注目していきたいですね。

 

―――敗戦から見えてくるもの

58.5 → 64.4 グラニット

58.9 → 64.0 タッチウッド

59.3 → 63.1 ベラジオオペラ

59.6 → 61.2 タスティエーラ

60.0 → 61.1 メタルスピード

60.2 → 60.9 ファントムシーフ

60.8 → 59.8 ソールオリエンス

各馬の前後半1000mはこのぐらいになると推定。逃げたグラニット、追いかけたタッチウッドやベラジオオペラがいかにオーバーペースだったかは言うまでもありません。18頭立てで通過順位[8ー9ー9ー8]のメタルスピードですら60.0→61.1という前傾ラップを刻んでいます。

そう考えるとタスティエーラの優秀さや適性が明確になってくる気はしないでしょうか。タスティエーラは前半59.6秒で折り返したにも関わらず後半でも61.2秒で駆け抜ける失速耐性と末脚の持続力の優秀さを魅せています。共同通信杯では終盤に末脚を伸ばすことができなかったことと併せて考えると、タスティエーラは「消耗戦に強い自力勝負型」というキャラを確定することができます。

次にルメール騎手の時計感覚に着目します。混戦の皐月賞であったこと、ジョッキーカメラからソールオリエンスをマークしている素振りが感じられないことなどから、ファントムシーフのこの位置取りはルメール騎手が自分で選択したものということになります。そこで刻んだタイムは60.2→60.9。出来得るかぎりイーブンラップで効率の良い走りを心掛けていたことがうかがえます。終盤の脚力が強烈な馬、強烈な失速耐性を持つ馬が前にいただけで、この3着は満点騎乗のもとで生み出された結果だということになります。こういった時計感覚があるからこそ結果を出し続けることができるのでしょうね。ファントムシーフ自身は日本ダービーに向けて、急加速力不足が喫緊の課題となりそうです。成長による補完は血統的に望みが薄く、騎手によるポジショニングや追い出しのタイミングなどでキレに秀でる馬を相手にどこまで対抗できるかが結果に直結してきそうです。

最後に、日本ダービーに向けて注目しておきたいのはベラジオオペラ。この馬の敗戦で過去の馬と重なったのがスマイルジャックスマイルジャックは1600~1800mを使われスプリングSで待望の重賞制覇。挑んだ皐月賞では先行し9着に敗戦。ローテーション的にも余力がなくガス欠したのは無理もありません。ベラジオオペラは関西馬でありながら3走連続で関東輸送。皐月賞は展開的な消耗度はもちろんのこと、重馬場のスプリングSで激走から中3週はエネルギー不足だったのかもしれません。「ダービーまでは距離不問」という持論から、日本ダービーでベラジオオペラの距離不安を勘ぐるのは愚行です。良馬場の皐月賞ならば本命視したぐらいの能力の持ち主ですから、重馬場の皐月賞から良馬場の日本ダービーへと舞台替わりで、末脚を主体とした軽快なスピードや脚質不問のレースセンスなどを活かしパフォーマンスアップする可能性は大いにあります。

 

・ソールオリエンス:ホンモノ

・タスティエーラ:消耗戦得意の自力勝負型

・ファントムシーフ:幅広い対応力あり(≒器用貧乏?)

・ベラジオオペラ:日本ダービー激走可能