東京ダ1600重賞らしく、武蔵野S好走馬のほとんどが早い上がりを使っていることが分かります。これは直線が長いコース形態に加えて、秋開催の東京ダートは軽い質感になりやすく、急加速力やトップスピードの要求度が高くなることに起因します。末脚を発揮するにあたって最も効きやすいのは「芝指向の末脚」であること。いわゆるダート的な失速耐性はあまり効果的でないともいえます。
そこで着目したいのはメンバー上位の上がりを使わずとも好走した馬です。特に良馬場ともなれば序盤、中盤の速さから終盤は踏ん張り勝負となるのが先行勢の宿命です。しかし先述しているように、武蔵野Sは特に終盤のキレが問われやすいレース。先行勢はレース質感と真逆のパフォーマンスを発揮しながら好走を求めることになります。
インカンテーション 57㎏ 1着
アキトクレッセント 56㎏ 3着
グレープブランデー 58㎏ 3着
ベルシャザール 56㎏ 1着
過去10年の良馬場で先行粘走をしたのは上記4頭。そもそも先行粘走が難しいなかで他馬より重い斤量で好走したグレープブランデーやインカンテーションはさすがGⅠ好走実績馬です。ベルシャザールも日本ダービー3着の実績とダート適性を魅せ、その後ダートGⅠ優勝を果たすほどの能力の持ち主でした。少しだけ毛色が違うのアキトクレッセントですが[35.1-24.9-35.5]と序盤・中盤が緩く流れるレース展開で特筆斤量などの不利もなく流れ込んだだけの3着だったと考えていいでしょう。それでも3歳時には57㎏背負って3着だった青竜Sがあるように能力の片鱗は魅せていたということだけは覚えておきましょうか。
このように、良馬場で先行粘走するには一定ライン以上のタフさ≒失速耐性が必要だということが分かります。GⅠ好走歴≒失速耐性ありと認めてもいいのですが、それではバレバレですので、1800以上での好走歴を失速耐性ありの見極めラインとして使いたいと思います。
・ブルベアイリーデ
オープンクラスの門番的存在。その立場を成立させるのは先行力と末脚力のバランスの良さです。尖った能力がないため重賞では詰めの甘さが目立ちますが、分厚い層のオープンクラスで常に上位を争えるのはそのバランスの良さがあるからこそでもあります。今後オープンクラスで活躍できるかどうかを見極めるポイントとして「ブルベアイリーデを倒せるかどうか」で判断できるといっても過言ではありません。
近走は距離延長で連続好走かつ初の重賞好走が叶いましたが、元来器用なタイプで能力バランスの良さが売りであることからも距離延長をこなせたことが驚けませんし、メンバーレベルも高くありませんでした。これを持って1800以上の好走歴≒失速耐性ありと判断し「武蔵野S粘走馬候補」とするのは慎重な判断としたいところです。
おそらくブルベアイリーデが今回好走するとすれば、器用さから立ち回りの巧さや能力バランスの丸みから漁夫の利的なシーンを想像します。失速耐性を活かしたゴリゴリといった競馬ではないはずですし、そうなれば自身の能力バランスに見合わないパフォーマンスからエネルギー効率の悪い競馬になると考えます。
・レピアーウィット
ムラ馬。外枠で揉まれずスムーズに走れると好走傾向。全体的なスピードと失速耐性が武器。重賞レベルだと1600ではキレ不足&1800ではスピード過多となりやすく、武器の両立が叶う条件が揃うことがなかなかない。21年マーチSは道悪&ハイペースが揃って優勝。早熟傾向にあるヘニーヒューズ産駒において6歳春で重賞初制覇は異端。昨年の武蔵野Sは[34.2-24.4-36.4]で序盤早く中盤やや緩む≒先行勢は非効率なラップ刻むレース。これを忙しく追いかけたことが敗因。今回も距離延長系の先行勢が揃いそうで同じラップ構成になりそうですが、仮に昨年よりもラクなラップを刻めるとすれば、スピードと失速耐性を活かして先行粘走が叶う能力は秘めていると考えます。斤量57㎏や枠順には注意しつつ判断したいです。
・オメガレインボー
末脚を活かすかたちとなった5走前から一変。これには母ワイキューブ(北九州記念で上がり最速を使って3着)が影響しているようで、芝指向の末脚を発揮することでパフォーマンスを上げたことと整合性が取れます。ただ、それまで通りの先行策だった武蔵野S・門司Sもハイペースで展開不利を受けていたので一概に先行策がダメだったわけではないことに留意。芝指向の末脚・ダート馬として軽量級・成長曲線ジワジワ上昇・人馬の信頼関係≒立ち回りの巧さ・末脚強化の厩舎育成傾向(現状)などから、東京ダ1600でスピードやキレの要求度が高まる条件は適性合致します。GⅠ好走歴のある高齢馬が衰えをみせたりや末脚特化馬が位置取りの不利を被るならば逆転するシーンまで想像できます。
追走力と一瞬の末脚を武器に芝ダ問わず好走を続けています。加齢の影響からスピード減退により芝での好走は難しい状況。プロキオンS・武蔵野S・フェブラリーS・さきたま杯とダート重賞での好走はやはり追走力と一瞬の末脚≒立ち回りの巧さで成立させたもの。『フェブラリーS2着』が輝きますが、フェブラリー週の東京ダートは異常なほど前内が有利なバイアスとなっていました。内でずっと脚を溜め、直線も内を捌いて進出してきた≒末脚の持続力要求度を極限まで抑えた競馬にすることが叶いました。加齢による衰えは感じつつ(芝レベルで)ありますので、いつダートレベルでも影響しておかしくありません。実績通り実力の高さは認めつつ、フェブラリーSでの好走により過剰人気を誘発するようであれば疑ってかかりたい状況です。
・タガノビューティー
末脚を活かせるかつ先行力不足を補える東京ダ1600がベスト。展開不問の末脚は魅力的ですが、重賞レベルでは未知数かつ同レベルの脚力を持つ存在がいます。オアシスS・欅Sではオープンクラスの門番・ブルベアイリーデに0.1秒先着。「ブルベアイリーデに0.1秒しか先着していない」という捉え方だと、重賞好走にはもうひとつパフォーマンスを高める必要があります。前後の不利を覚悟のうえで末脚に賭ける戦法は変えないでしょうから、重賞レベルのメンバー相手では先行力不足が大きく響く可能性もあります。良い意味でも悪い意味でもあまり成長が感じられないのも懸念材料です。今後重賞で活躍できるかどうか試金石となる一戦ですが、想定オッズと期待値が見合っていないと考えます。
■結論
ヒロシゲゴールド、リアンヴェリテはハイペースメーカー。距離短縮指向のスピードに秀でるぶん、騎手心理は距離不安がつきまといます。そのため序盤早く・中盤緩むラップ推移が予測されます。これは先行馬にとって序盤のアドバンテージをみすみす吐き出す形となるため致命的なロスとなります。いわゆる非効率なエネルギー消費です。こうなればもう東京1600は差し追い込み決着の末脚勝負です。
フェブラリーSではバイアスに泣きましたが、かしわ記念や南部杯で上位の力量を確認しているソリストサンダー。芝指向の末脚を発揮した昨年の武蔵野Sはお見事でした。
ワンダーリーデルはいかにもここを狙ってきた前走。衰えなしの末脚は斤量減かつ状態アップで前走以上のキレを発揮するはずです。
そこに食らいついて欲しいのがオメガレインボー。条件は揃ったのであとは成長曲線がどうか。実績馬相手に僅かでも上回っていて欲しいと希望的観測も含めて評価します。